【66】ゲームと政治のつきあい方——行政広報ゲーム

蔵原 大

プロ・アマの皆さんへ

 ゲームにご興味ある皆さんの大半は、ゲームが楽しいから興味がわくのでしょうし、政治という言葉を耳にされて面白いとはお感じにならないかもしれません。ゲームは身近な娯楽で、政治は縁遠くてシリアスな何か。そんなイメージはごく自然です。

 でもそのイメージ、本当にゲームの真実でしょうか?

広報的シリアスゲーム

 いわゆる「シリアスゲーム」は、20 世紀後半から医療や教育での利活用が進んだことで、社会的にかなり認知されています。その定義は、ゲーム研究者の藤本徹氏によると「娯楽を超えた社会的な目的のためにゲームを開発・利用」することです。たとえば九州大学で開発されているリハビリ用ゲーム( http://macma-lab.heteml.jp/html/game/game.html#rihabirium )、または 19 世紀以来の行政、特に国防の領域で防災訓練、作戦研究に用いられる「ウォーゲーム」(ないしは図上演習、指揮所演習、Modeling & Simulation など別称あり)がそれに相当します。

 けれど、そうしたゲームが基本的には限定ユーザー向けだったのに対し、21 世紀に入ると別の、つまり不特定多数者向けのシリアスゲームが登場します。

 ご存じのように、今の中華人民共和国と日本との間にはさまざまな軋轢があります。その是非はさておき、中国にとある無料ゲームがありまして、タイトルを邦訳すると「釣魚島を取り戻そう」となります。プレイヤーは中国軍人となって日本から「釣魚島」(日本名「尖閣諸島」)を取り戻します( http://mil.huanqiu.com/game/diaoyudao.html )。このゲームの特色は、配信元が中国の公共放送サイトだという点です。これをもし日本に当てはめるなら、NHK が「北方領土」奪還ゲームを配信する、という構図に近いでしょう。

 政府系の団体から配信されるゲームは、なにも中国だけに限りません。アメリカ陸軍は新人募集のため「America’s Army」という FPS ゲームを公開し、日本の財務省は「財務大臣になって財政改革を進めよう」という予算編成ブラウザゲームを出しています( http://www.zaisei.mof.go.jp/game/yosan/ )。もちろんいずれのゲームも国費(つまり税金)で制作されているのです。

 ここまでの話をまとめると、次のようになります。

 後者の中でも政府機関(特に行政府)が配信するコンテンツは、いまや世界各国で確認できます。それをまとめて「行政広報ゲーム」(Games for Governmental PublicRelations)と総称しましょう(DiGRA JAPAN 会員の吉永大祐さんと共同で考案した新語です)。一見するとエンターテインメントですが、その内実は(クラウゼヴィッツ風にもじると)「他の手段をもってする政治の継続」なのです。政府系ゲーム・メディアとも言えますし、政治学者ジョセフ・ナイが指摘した「ソフトパワー」に近い存在かもしれません。

最後に——未来をお選びください

 ここでゲーム以外のメディアに目を向ければ、新聞・映画・ラジオ・テレビなど多くの情報媒体が、第一次・第二次の両世界大戦、米ソ冷戦期、その後のこの今日まで、政治利用とともに発展しました。マスメディアのコンテンツは、おもしろいエンターテインメントであればあるほど、皆さんの心に浸透するプロパガンダとなり得るからです。

 言うまでもないことですが、ゲームメディアと政治との連携は必ずしも悪いことではないでしょう。ゲームを介して市民と行政府との間の双方向的コミュニケーションが促進されれば、政治の透明化につながるかもしれませんね(または洗脳にも?)。

 最後にプロの皆さま、特にゲームクリエイターの方にお訊ねします。もしご機会ありましたら、「行政広報ゲーム」の制作を受注されますか?