【38】どんな時も当事者意識を忘れない

尾形 美幸

 私は CG と教育を軸足とするライター&編集者なので、四六時中ゲームに関わっているわけではありません。ゲーム開発者のインタビュー記事や、ゲーム業界を目指す学生向けの教材を制作する一方で、映画の VFX、アニメの CG、時にはプロダクトデザインや建築での CG 活用事例を扱うこともあります。本書執筆者の中では異色の存在かもしれませんね。そんな私が、仕事と向き合う時に最も大切にしているのが「どんな時も当事者意識を忘れない」という心がけです。

 とても平凡なことで、この場でわざわざ語るのは気恥ずかしい気もします。けれど、過去に私が仕事をご一緒した方々の中で、背筋がゾクゾクするような素晴らしい実績を上げてきた方は、漏れなく桁違いの当事者意識をもって仕事に臨んでいました。責任をもって自分の仕事を遂行し、自分ならではの価値を乗せて、次の担当者に届ける。届けた後も、必要に応じてフォローする。これを真剣に実践するか否かで、成果物やサービスの品質はもちろん、周囲から寄せられる信頼も大きく変わってきます。

 では、そんな当事者意識をもって仕事をするためには、具体的にどのような行動を実践すればよいと思われますか? 私が常に心がけている 3 つの約束事をご紹介します。

1:最終形とユーザーの姿を想像する

 仕事を依頼されたら、早い段階で具体的にその最終形を想像し、目に見える形に起こします。例えば私が雑誌用の原稿を作る場合は、文字や図版の数、レイアウトなどを示したラフを描き、関係者に共有して意見をもらいます。この時、成果物やサービスを受け取るユーザーの姿も想像することが大切です。どんな人にどんな形で使ってもらいたいのかが明確に想像できる仕事ほど、迷いや不安は少なくなります。

 もし想像できないのであれば、情報が不足しているということです。積極的に調べ、関係者に聞き、情報を集める必要があります。たとえ自分の担当が大きなプロジェクトのほんの一部分だったとしても、最終形とユーザーの姿を能動的に想像し続けることで、自分が本当にやるべき仕事が明確になっていきます。

2:70% 以上の体調を維持する

 品質の高い仕事をするためには、知識や技術、センス、経験値などと合わせて、元気な身体がすごく大切です。精度の高い注意力や逆境に立ち向かうド根性は、体調が悪ければ発揮できません。絶好調を 100% とした場合、常に 70% 以上の体調を維持することを私は目標にしています。一定レベルのアウトプットを継続するためには、一定レベルの体調を維持し続けることが必須だと考えているからです。

 体調を整える方法は人によってさまざまだと思いますが、私が一番大切にしているのは、規則正しい睡眠と運動です。どんなに忙しくても、睡眠と運動の時間は極力削らないよう努力しています。数年前までは眠る時間よりも仕事の時間を優先していましたが、さまざまな試行錯誤を経た結果、今では眠ることも運動することも、仕事の内だと考えるようになりました。

3:〆切を守る、守れない時は事前連絡を入れる

 仕事の品質を維持するのに加え、〆切を守ることも大切です。常に一定レベルの成果物を〆切前に次の担当者に届けることで、周囲の信頼を得られ、新しい仕事に挑戦するチャンスをもらえる場合もあります。一方で私が〆切を守らなければ、後工程の担当者の負担が増えます。その負担のしわ寄せが成果物やサービスに波及すれば、ユーザーにまで嫌な思いをさせることになります。

 どうしても〆切を守れそうにない場合は早い段階で関係者に連絡し、他の担当者の負担を最小限に抑えるよう努めます。事前連絡なしに〆切を破ることは、極力避けるよう心がけています。

 以上 3 つの約束事を意識しつつ自分の仕事を大切に扱うほど、仕事を楽しめるようになると私は感じています。