【18】中国ゲームのコピー・イミテーション・イノベーション

中村 彰憲

著作権ビジネスの暗黒大陸、中国

 中国と言えば「コピー天国」を連想する人も多いのではないだろうか? 実際、繁華街の裏路地には海賊版 DVD やゲームが溢れており、ゲーム機ではコピーゲームのプロテクションを解除した改造版が売られている。かつてソニーチャイナが試験的にプレイステーション 2 を販売したものの、現在ではゲーム機の販売は「神遊科技」以外、認可されていない。したがって「コピー天国」にならざるを得ない環境が整っているのだ。

 さらに中国の海賊版市場は、この非合法品の流通網を支える巨大なブラックマーケット抜きには語れない。映像メディアに視野を広げると、中国で大量生産された商品が東南アジアやロシアなどの新興国や、欧米圏のチャイナタウンなどで流通されるケースも出てきている。世界規模で流通を担う多国籍非合法商社のようなものが、正規の流通網に対し圧倒的な競争力を得ている事実がある。つまり、中国で圧倒的な力を占めていたのは、長く「コピーの力」だったのだ。

プロダクトイミテーションとサービスイノベーションの時代

 だが 2000 年、オンラインゲームサービスが中国で正式に展開されると、中国はコピーからイミテーションの時代に突入する。日系と台湾系の企業が中心となって、オンラインゲームを中国で展開し始めたのだ。

 ただ、彼らは中国市場の潜在力を見誤っていた。当時中国では、多くの企業が PC ゲーム向けの販売流通網を利用してクライアントソフトの販売を行っていた。サーバーも上海、北京といった大都市付近に設置していたため、地方では快適にゲームをプレイすることが難しかった。

 ところが上海のベンチャー企業、盛大ネットワークは、当時急激に増えていたインターネットカフェに着目し、プリペイドカードを卸売していった。同時にクライアントソフトを無料でダウンロードさせ、プレイを継続する際にプリペイドカードを購入させるモデルに切り替えた。インフラ面でも内陸地も含む複数のデータセンターと提携し、サーバー投資を積極的に行ってきた。365 日、24 時間のコールセンターを設置し、ユーザーからの質問やクレームに対応できるようにもした。これらの複合的な要因が絡み、02 年 10 月には同時接続者数 60 万人を突破。新規参入でありながら、盛大ネットワークはオンラインゲーム市場でしばらくの間、一人勝ちの状況を作り上げたのだ。

 さらに 2003 年 5 月、同社はインターネットカフェとの間で銀行決済を可能にするシステムを構築。プリペイドカードの代わりに電子ポイントでサービス時間を取引するようになった。また 2005 年からは主要タイトル全てを月額課金からアイテム課金に切り替えていった。

 一方で初期の主力タイトルだった『伝奇世界』は、韓国 Wemade が開発した『Legendof Mir3』を極めて忠実に模したものだった。つまりサービス面ではイノベーションを起こしながら、ゲームはイミテーションだったのだ。中国の大手オンラインゲームパブリッシャーも、これと同様の道を歩むこととなる。すなわちサービスそのものは、世界でも類を見ない革新的な取り組みを進めつつ、ゲームタイトル自身はイミテーション的な作品が圧倒的に多かったのだ。

プロダクトイノベーションの実現とグローバル化

 だが、2005 年にリリースされた完美世界の『パーフェクトワールド』は、前身の企業が 5 年をかけて自社開発した 3D CG 技術の MMORPG への転用と、ユニークなゲームシステムの導入で、中国だけでなく東南アジア、ロシア、日本でも受け入れられた。つまり、中国企業が作品そのもののイノベーションを実現したのだ。また 2009 年には Rekoo がソーシャルゲーム『サンシャイン牧場』を日本でブレイクさせたのも記憶に新しい。

 このように 80 年代後半から 90 年代の「コピー」の時代。ゲーム運営手法は革新的だったが、ゲームは「イミテーション」だった 2000 年~ 2005 年。そしてついにゲーム自体が「イノベーション」を果たした 2005 年以降の中国と、中国ゲーム産業は確実に進化を遂げ、その競争力を高めてきた。

 そして 2012 年、中国はオンラインゲーム市場単体で、602.8 億元(9,042 億円)にも拡大し、多くの企業が NASDAQ など海外の証券市場で上場している。このような中国ゲーム産業の急速な成長の素地に「コピー」「イミテーション」「イノベーション」というステップが存在していたことを忘れてはならないだろう。