【16】なぜローカライズだけではいけないの

エミリオ・ガジェゴ

 海外に向けてプロダクトをリリースしたいときはすぐにローカライズという言葉を思い浮かべる。一方で国際化・インターナショナリゼーション・グローバリゼーション・翻訳といった言葉もあるが、これらの違いは意外と知られていない。

 翻訳とは、例えば、キャラクターのセリフで「I am Bob」を「私はボブです」とするように、ある言語で書いてあるものを別の言語に書き直すことを指す。しかし、ボブはどんな人で何歳なのか、どんな雰囲気の人でどのような話し方をするのかなどは、この一文では不明である。

 もしかしたら、「僕はボブじゃん」、または「俺はボブ」、もしかしたら「儂はボブでございます」などキャラクターの背景によってさまざまな翻訳ができる。なにがふさわしいかは人格・発言の状況、それに文化圏ごとの習慣に依存しており、これらを念頭において翻訳することが、まさにローカライズと言えよう。

 台詞だけでなく、プロダクト全体の内容を目的領域の常識に照らして調整することが必要で、次の事柄も重要なこととなる。

 多言語版をシームレスに開発するためには、それなりのシステム設計が欠かせない。この構築プロセスはインターナショナリゼーション、または国際化と呼ばれる。テキスト管理はどのように行うか。通常は複数言語の同時管理や文字制限情報などが簡単に記入できる Excel フォーマットが採用されるが、自社のシステムを作る企業もある。そのほかに次のことも念頭に置くことが必要となる。

 これらは事前にシステムに組み込まないと、ローカライズプロセスがとてつもない作業に変貌してしまう。後から実現しようとすると、それにかかる資金と時間は元の数十倍に及んでしまうため、海外版を作る予定があってもなくても、国際化はルーチンで行うべきプロセスである。

 多言語版がすぐに実現できるようにシステム設計が無事に済んだ場合、翻訳作業は文字制限に大きく手こずらずに進められ、各言語のテキストの組み込み作業は流し込みで完了できる。これが実現できれば早期に全世界でリリースでき、より多くのユーザーに利用してもらえるため、作り手の喜びは計り知れない。

まとめ

 グローバリゼーションはカスタマーサポート・マーケティング・経理・法律など他部門にまたがるリリース向けの準備プロセスとなり、上記の全てを含む。

 欧米ではアプリや家庭用ゲームのほとんどが最低 5 言語対応(英・仏・伊・独・西)だが、日本の企業は英語版だけ作る傾向が見られる。ローカライズは英語だけではないことを忘れずに、企画段階から世界を視野に入れたグローバライゼーションプロセスに取り組むべきである。