【93】あなたはコントロールしていない
私がかつてコーチしていたあるプロジェクトの話をします。プロジェクト・マネジャーは明らかに中央集権的にコントロールすることを望んでいました。彼は「重大な」意思決定をする議論には自分がすべて関与しなければならないという、強迫観念に取りつかれているようでした。毎日のスタンドアップミーティングを積極的に仕切り、プロジェクトのふりかえりでは、彼ひとりで次にだれが話すかを決めているようでした。実際のところ、私がやって来たころまでは、彼のチームはうまくまとまっていました。私はそのプロジェクト・マネジャーがいるところといないところで、どれくらい議論の質に差があるのか興味がありました。
数名のチームメンバーと一対一で話したところ、彼らはプロジェクト・マネジャーが開くすべてのミーティングが嫌いであることを打ち明けました。早々に終わってほしいと願っていたのです。自分たちの本当の意見は重んじられないので、出席しても時間のムダだと感じていたのです。彼らは話が先へ進むよう、プロジェクト・マネジャーが聞きたがっていることをその通り話したことが何度もあると語ってくれました。解決すべき問題があると、彼らはテクニカル・リードのところに相談しに行きました。テクニカル・リードはもっとオープンな議論を望んでおり、喜んで効率よく問題を解決してくれました。
私がこのチームから学んだ教訓は、自分が状況をコントロールしているように振る舞うことと、実際にコントロールしていることは同じではないということです。実際のところ、積極的にコントロールしようとすると、逆効果を生むこともあります。経験豊富なよくまとまったチームは、個人的理由からコントロールしようとする人を遠ざけます。そのコントロールがチームにとってほとんど役に立たないのなら、なおさらです。
プロジェクト・マネジャーは、グループダイナミクスと多様なリーダーシップスタイルを理解しなくてはなりません。プロジェクトが異なれば、チームが異なれば、必要とされるコントロールレベルも異なります。よくまとまったハイパフォーマンスなチームであれば、自分たちにとって助けになることがわかっている場合を除いて、余計なコントロールを不快に思うものです。
コントロールは「余計なお世話」だと見なされるのです。たとえ口頭では合意していても、ミーティングを離れてしまうと、あなたの意図を十分反映した行動をとらないいかもしれません。しかし、新しく作られたばかりのチームの場合には、コントロールすればするほど、チームに明確な指針を与え、プロジェクトにとって明確な目標を確立できるかもしれません。
すばらしいプロジェクト・マネジャーは、チームメンバーがそのプロジェクトにどんなスキル、経験、コネクションをもたらすかを理解し、適度なコントロールを発揮します。彼らは、どんなときにコントロールするとチームが最終目標へと向かう助けになるかを知っており、どんなときにコントロールするとチームの進捗を遅らせるのかを知っています。
このことが特に重要になるのは、非 IT プロジェクト・マネジャーがソフトウェア開発プロジェクトを指揮するよう頼まれたときです。プロジェクトチームは、現場に対する外部からの干渉にイライラし、プロジェクト・マネジャーがプロジェクトにもたらすスキルセットを過小評価するおそれがあります。
組織のスキル、プロジェクト・マネジャーがプロジェクトを会社の目標と一致させる能力、上位マネジメントと顧客とのコミュニケーションラインのケア、これらのスキルがチームを守り、チームメンバーに自由に仕事をさせるために重要なのです。