【92】思いが新鮮なうちに手書きする
趣味で制作する同人ゲームが完成に至るかどうかは、制作者のモチベーションにかかっています。商業ゲームとは違い、制作者がやる気を失えばすぐにでも制作をやめることができるからです。人やお金、手間をかけずに進行している場合はさらに未完成へのハードルが低くなります。
私はモチベーションを維持するために、自分へのご褒美を用意したり、引くに引けない状況へ追い込んだりと、あの手この手を使っていますが、その中のひとつに「最初にゲーム制作の目的を定めておく」というものがあります。これがなかなか有効な手段でお勧めです。
たとえば「個性的なキャラクターや世界観を作りたい」「エンディングで驚かせたい」「システムに趣向を凝らしたい」など、ゲームを制作したいと思うきっかけはさまざまです。それをできるだけ具体的な目的にして書いておけば、あとで読み返したときに「これはおもしろい! これをやりたい!」と意気込んで書いたときの満ち溢れたやる気を思い出すことができて、大きなモチベーションにつながります。自分の「作りたい・形にしたい」という意欲ほど制作を後押しするものはありません。
目的を頭の中に思いとどめておくだけでは、それに伴う意気込みは徐々に薄れていってしまいます。また、人の(というか、私の)記憶は頼りなく、気づかないうちに目的が変化している場合もあります。
書いてはっきりと形にすることによって自分の考えをまとめることができ、また制作中に迷いが生じたときにはそれが自分で定めた目的から外れていないか、本当に目的のために必要なことかどうかなどを判断するための良い材料にもなってくれるので、制作を始めるときには意識して書くようになりました。
書くときのポイントは、このゲームを制作したいという勢いがあるうちに書くことと、日付けを添えて直筆で残しておくこと。
「何をやりたいのか」という具体的な目的と一緒に、「なぜ作りたいのか」「狙いは何か」「面白味はどこなのか」など、あとでそのときの熱意が読み取れるような言葉を思いつく限り書いています。勢いに任せて書いた文章は、冷静になったときに読み返すと恥ずかしさで頭を抱えたくなったりしますが、修正すればするほど最初の勢いが失われていくので書き直しません。
それから、文字はフォントで表示される綺麗な文字よりも、思いのままに綴った自分の文字のほうが効果的のようです。私は酷いときには自分でも解読が困難になるほどの悪筆なので、最初はパソコンにテキストで書き残していました。ですが整った文字は味気なく簡単に修正できてしまうこともあり、今は長年付き合ってきた自分の字でノートに書いています。絵や図も簡単に加えることができ、記憶にも残りやすいのです。
制作を進めていくにつれて目的が変化した場合でも、最初に書いた文章は消さずにそのまま残しています。変更する内容は、後日読み返したときにそこへ至った過程を知ることができるよう日付けを添えて元の文章に追加。とにかく、最初の勢いのある文章をそのままの形で残しておくことを大切にしています。
ゲームの制作は長期にわたることが多いので、最初から最後までモチベーションを高く保ったまま作り続けることはほとんど不可能です。作っているうちに、何がおもしろいと思って作っていたのか、何がやりたくて作っていたのか目的を見失うこともあります。そんなときには原点に戻り、最初の原動力を思い出してみてはいかがでしょうか。