【55】[ゲーム作品を作る]とはどういうことなんだろう?

風之宮 そのえ

 僕が企画し弊社で制作した PSP 用ゲームソフト『英国探偵ミステリア』というタイトルがあります。

 何か新しいことがやりたい! と思い、企画段階から、イベントを考えていました。11 人の声優さん全員にパブの段階からキャラクターの衣装を着てもらいました。

 衣装のツテが何もなく最初は苦労をしました。仮縫い、試着、調整、本縫い、再度試着。ウィッグも人数分を集めなければならず、タイアップ先を探し、調達。靴もあちこち探しました。

 衣装が用意できた順番に雑誌やパンフに使うグラビア撮影。近くて世界観の合うスタジオを探したところ、スタジハムスターさんとタイアップが実現。ヘアメイクはよくお世話になっているヌマ☆ヌマさん。写真は自分が元カメラマンだったこともあり、担当することに。

 1 人~最大 3 人であわせて撮影し、撮影後に音声収録をおこなう日もありました。人数が増えると合間での会話に花が咲き、撮影は進まなくなるのですが、即興で芝居が始まったり、おもしろい空気ができあがりました。カメラマンと音響監督を兼務した長い一日が終わると、すごい疲労感。でも事務所に戻るとデスクワークが待っていて、翌日は朝から音声収録を再開なんてことも、よくありました。

 撮影後はコントラスト調整など写真調整。事務所への写真のチェック。同時進行でイベント用キャラクターソングの制作、収録。これらが一段落する頃には舞台制作会社、舞台音響、演出の方々とのやりとりや台本制作、生演奏の奏者のアテンドと譜面の手配、連取場所の手配など。あわせてパッケージ、マニュアルなどの校正、確認。ゲームのデバッグ。イベントのチケット販売やリハーサル。販売物の調整。マスター提出が終わるとイベント公演。その後、マスターディスクを数回再提出し、無事マスター提出終了。

 次は発売日に向けて執事喫茶のコラボカフェ、ホワイトローズのコラボケーキの確認やロリータブランド、メタモルフォーゼさんのコラボ衣装の確認。新宿マルイワンのコラボイベントの販売物でグッズ屋さんとの確認。イベント時におこなう握手会の調整。

 事務所さんとの金額交渉やデパート内の物販の口座開設。そして発売日を迎えました。

 これが人気タイトルの二作目や、人気メーカーの新タイトルであれば、どの企画もコラボも鉄板だと思いますが、弊社のような小規模の、しかも乙女ゲームのような市場規模の小さなジャンルで、しかも完全新作。少しでも外したら大変です。毎日が憂鬱で、落ち込む日もありましたが、結果的には成功して、本当に良かったと思います。

 ゲーム制作はゲームソフトを作るだけだと思っている人は多いと思います。しかしゲームを中心に、いかに周辺を盛り上げていくか? も課題の一つです。一本のストーリーを軸にコミカライズ、ノベライズからイベント、キャラクターソングなど、トータルで考えてひとつの作品であり、ひとつのビジネスでもあります。絵しか描きたくないグラフィッカー、文字しか打ちたくないシナリオライター、プログラムにしか興味がないプログラマー。ビジネスにしか興味がないプランナーに疑問を感じます。

 そういえば歌収録の現場で、ある声優さんに笑って「何しに来たんですか?」と言われたこともありました。自分があまりにもいろいろやっていたので、カメラマンか音声収録の人だと勘違いされていたんです。褒め言葉だと思います。自分はプロデューサーなので、専門の方にはかないません。でも他人から本職だと思ってもらえたのは、1 つの仕事を長年作り続けた結果だと思います。

 ゲーム制作は素材を作るだけの単調な仕事ではありません。思いつく限り仕事が増えていく反面、楽しみも増えます。想像を超える苦労もありますし、休日がなくなったり、徹夜したりすることもあります。自分が手がけている物は作品なのか? それとも商材なのか?自分たちは売れる商材を作るため、日々工場労働のように仕事をしているのか? それとも作品制作に身を捧げ、ユーザーの心に残るものを作っているのか?

 自分の仕事は多岐に渡りますが、基本はゲームクリエイターです。ゲームから、その派生物まで目を配り、クオリティ管理をするのが仕事です。

 これを読んでいる方にお聞きします。

 「どういう作品を作りたいですか? どういう作品に関わっていきたですか?」

 制作者として、良い作品に出会えることを祈ります。