【33】クリエイティビティとプロフェッショナリズム

上原 倫利

 ゲーム制作の現場では、「クリエイティブであることがプロフェッショナルである」という傾向が強くあります。

 ゲーム制作においてクリエイティビティ(創造性)はとても重要です。ゲームクリエイターという名称が示すように、作り手はクリエイティブであることが求められます。特に商業制作の現場では、職種を問わずこの傾向が強くなります。ゲームデザインやレベルデザイン、プログラムにグラフィック、サウンドやシナリオなど。全てにおいてクリエイティブにこだわり、リソースを惜しみなくつぎ込む。いかにも商業らしい制作スタイルです。

 ところが、クリエイティブな成果物とは定量化して評価することが難しく、クオリティの基準が不定で際限がありません。そのため、クリエイティビティにこだわるほど作業量が膨れ上がり、スケジュールやリソース管理は不安定になります。予算や期間に限りある商業制作では、無制限に作り込むことができません。結果として、クリエイティビティのために予算や期間を超過するか、クリエイティビティを諦めて仕様を削減するなどの判断に迫られます。そうなると、ゲーム全体のバランスが調整不足になり、さまざまなバグを残したまま発売しなくてはならなくなります。

 これに対し、クリエイティビティにこだわるため採算を度外視したり、よりクリエイティブな人材を多く揃えたりすることで補おうとする事例があります。それでもクリエイティビティの定量化が難しい限り、不安定さを解消することはできません。

 クリエイティブであればあろうとするほど、クリエイティビティが失われていくジレンマ。商業制作の現場は、常にこの葛藤とせめぎ合いです。仕事とはそういうものだと思われるかもしれません。しかし、これは目的に固執して手段が疎かになっていることが原因です。目的のために目的を危うくしてしまうのでは本末転倒、とてもプロフェッショナルとは言えません。

 プロフェッショナルとは、目的のために手段を最適化することです。これは、限られたリソースの中でクオリティを保つために、手段の質や量を向上させる工夫をすることだと言えます。

 ゲーム制作においては、成果物のクオリティにこだわることがクリエイティブだとされてきました。そのような定量化が難しい要素は、試行錯誤の回数や費やす時間などの量が十分であるほどクオリティが保たれます。量を増やすには、手段である制作工程の質を引き上げること(=最適化)が重要です。そのためには制作工程を定量的に評価して、効率化にリソースを惜しまずつぎ込み生産性の向上を図ることが必要です。

 例えばレベルデザインの要素であるパラメータ設定では、調整し検証する際にかかるコストを定量化することができます。ツールからデータを出力しコンバートを経て実機で確認するまでのサイクル。データフォーマットの構造簡略化とカスタマイズの冗長性。ツールを開発し整備するコストと運用で消費されるコスト。これらにかかる時間や工程数、習熟性や消費リソースなど、従来は経験と勘でカバーしてきた要素ほど、定量化による評価と最適化の余地があります。こうして確保された手段の量が、目的のクリエイティビティを向上させ、不安定さを軽減するのです。

 プロフェッショナルであるためにクリエイティブである必然性はありません。クリエイティビティを活かすためにプロフェッショナルであることが重要なのです。「クリエイティブであることがプロフェッショナルである」のではなく、「クリエイティビティのためにプロフェッショナルになる」こと。特に商業のゲーム制作に必要なのはこの意識、プロフェッショナリズム(職業的意識)です。クリエイティビティに固執しクリエイティブでないことを嘆くばかりのゲームクリエイターは、プロフェッショナルではありません。アマチュアです。

 これからもゲームがクリエイティブであるために、ゲームクリエイターの皆さんはプロフェッショナリズムを大切にしてください。