【06】ゲーム開発者のお手並み

松原 健二

 ゲームは他の産業に比べて若いと言われてきた。「若さ」とはすなわち「伸びること」だが、この 10 年間で国内の家庭用ゲーム市場は停滞し、すっかり成熟期に入った。ソーシャルやスマートデバイスゲームが出現し「若さ」を顕示しているが、現状では家庭用ゲームからソーシャルへの開発者の異動はそれほど大きくないという見方が大勢だろう。以前よりゲーム開発者の多くは将来のキャリアに不透明さを感じている†。この先どうなるのだろうと考える開発者はこれからも増えるはずだ。そういう開発者へ、キャリアを描く参考となるお手並み(腕前)をお伝えしたい。自分を理解し、市場を把握して、あとは進みたい道へさっさとどうぞというシンプルな流れを。

 ゲーム開発者のキャリアを描くスキルを、筆者の独断でざっくり 3 つにまとめると、1)開発する力、2)仕上げる力、3)伝える力になる。開発する力とは、それぞれの職種で求められる技能であり、高い力を有する人には陽の目の当たる仕事がやってくる。自らのスキルアップを図りながら、プロジェクトに大きく貢献できるオイシイ役割だ。仕上げる力とは、大抵のプロジェクトにて起きる大小さまざまな問題を解決する技能であり、高い力を有する人にはトラブルの火消し役や短期の売上げ対策がやってくる。頑強な身体が必須なことは言うまでもない。伝える力とは、チームの置かれている状況や進むべき方向などをわかりやすく示す技能であり、高い力を有する人にはコンセプト資料の作成や新人の育成(しかも優秀な)などがやってくる。

 経験 10 年の開発者なら思い当たるフシがあるだろう。新卒で配属直後にオンラインゲームのサーバーコア部分の担当になった、品質も日程もバグも収束の目途が立たないプロジェクトに突っ込まれ 2 か月でマスターを出した、突然にシリーズ新作のコンセプトシートを来週までに提出するよう指示された、などなど。そんな無茶振りの経験(=星)の数を、自分の実力と捉えよう(もちろん成功したものだけ)。世の中は競争社会、星の数で待遇は決まってくる。若い人は経験 10 年までに星を貯めることが目標になる。

 中堅より上は、自分の星の数と周囲の競争相手との比較で、背伸びし過ぎないことが肝要だ。しかしそれが難しい。こんな例がある。「自分は開発する力があるのに、いつもプロジェクトの中盤以降でしか参加できない。最初のメンバに加えてほしい」というクレームを何度聞いたことだろう。自分の評価に納得できない姿勢ではなく、何が自分に足りないのかを謙虚に見つめる姿勢が大切だ。

 注意してほしいのは、自分の力はこんなものだから高望みせずに諦めようということでは決してない。どんどん転職しようと積極的に進めているわけでもない。むしろ、これからシニアになっても働かねばならないので、キャリアを考えて磨き続ける姿勢を保つことが必須だと伝えたい。

 もう 1 つ大切なことは、伸びている業界では少ない星でもそこそこの待遇だが、停滞あるいは縮んでいる業界では、星が少ないと仕事を失うリスクに直面する。言うまでもないが、これはゲームに限ったことではない。つまりキャリアの透明さは長期間では業界によって大差ない。自分の力を知り、周囲を把握し、自分を生かせる道を探して、決めたらさっさと仕事へと邁進していただきたい。ゲーム開発者がより良い仕事に出会い、成長を続けることを念じてやみません。