【05】「ゲーマー」としてのキャリアパス

松井 悠

 97 人本の中で、おそらくゲーマーについて書いているのは僕だけなんじゃないか、と思う。ゲーマーとしてキャリアをスタートさせ、現在にいたるまで、さまざまなゲーマーを目の当たりにしてきた僕は、ゲーマーの力を信じている。類い希なるセンスを持つゲーマーたちがそのスキルを存分に活かして喰っていけることを信じて、このコラムを贈りたい。


 「ゲームで 3 回日本一になりました。でも、原稿料は上がりませんでした」

 これが僕の「ゲームで喰っていくための方法」を意識した原体験だ。ゲームの中の閉じた世界にいる限りでは、この「日本一」という言葉はそれなりに効果がある。周りに人が集まり、賞賛を得ることもできるし……場合によってはモテる。

 ところが、ゲームの外ではどうか。

 昨今の日本でも聞かれるようになってきた、ゲームを競技として捉える「ElectronicSports」というカルチャーがある。真剣にゲームをプレイし、世界一を目指す若者たちが切磋琢磨するシーンは、多くの若者の共感を得、試合のインターネット配信視聴者は数百万人にも及ぶ。優勝者に与えられる非常に高額な賞金も、その熱に拍車をかけている。

 しかし、職業的ゲーマーとして生きていける旬の時間は他の「スポーツ」に比べて短い(無論、例外はあるにせよ国際的に見て職業的ゲーマーの「寿命」は長くても 3 ~ 5 年程度だ)。私は元プロゲーマーが現役時代の賞金で余生を過ごしている、という話は寡聞にして知らない。

 では、果たしてそこから先の道は? 10 代から 20 代にかけて、他の同世代の人間たちが、学業に、あるいは仕事に邁進していた間、何もかもを犠牲にしながら、ゲームに全てを捧げてきた若者たちに、どんな将来があるのか?

 僕からの答えはこうだ。「何かをアウトプットする能力を併せ持っているならば、ゲーマーとして喰っていくことはできる」

 競技者としてのゲーマーに求められるスキルは非常にシンプルだ。ただ、誰よりも強くあればよい。だが、そこに社会との接点を求め、生活の糧を得るためには、それだけでは不十分だ。

 ゲームを誰よりもやり込み、誰よりも深い造詣を持っているからこその仕事、これは世の中にたくさんある。

 たとえば、ライター。たとえば、イベントプロデューサー。PR 担当、編集者、ラジオ DJ、イベント MC、TV 番組プロデューサーや構成作家、産学連携事業プロデュース、大学講師、オンラインゲームの公認ナビゲーター、さらには国際ゲームイベントのコーディネーター、なんてこともできる。ここに挙げた仕事は、実際に僕がやってきたことだ。

 僕の知り合いには、トップクラスのゲーマーからクリエイターになり、ゲーム開発に携わっている人や、ゲーム映像クリエイターの道を歩んでいる人がいる。これもまた、ゲーマーのキャリアパスの 1 つと言えるだろう。

 ただし、気をつけてもらいたいのは「ゲーマーは喰わせてもらえる」わけではない、ということだ(これはゲーマーに限った話ではないが、日本一や世界一のゲーマー、という称号を一度手に入れた人間は、それだけで世間様に喰わせてもらえるものだと、とかく勘違いしやすい——自戒を込めて)。

 深いゲームへの知識に加え、適切なアウトプットスキルを兼ね備えることができれば、ゲーマースキルを存分に活かしていくための道は必ず存在する。

 だから、改めて言いたい。「ゲーマーは喰える」