【90】我が社は 3K ゲーム

森川 幸人

 うちのゲームはいつも 3K をめざしています。

 カワイイ、簡単、変わってるの 3K。

 これをパブリッシャーに通すのはなかなか大変です。かつて、自分の仕事のほとんどは、企画を通すことでした。ヘタをすれば企画が通ったところでバーンアウトしてしまうくらい大変でした。

 最近は、この苦労が少なくなりました。

 簡単な話です。

 自分たちで企画から制作、販売までできるようになったからです。作る作らないを判断するのも自分。売る売らないを判断するのも自分。だから自分でイイと思うアイデアが浮かんだら、その瞬間に、できたも同然!

 自分たちでゲームを作って遊んでもらうのは、PC 環境でも可能でしたが、スマートフォン、特に iPhone の登場により、格段に簡単になりました。プレイ環境だけでなく、売る環境、すなわち iTunesStore が用意されている。つまり、ちゃんと「仕事」として考えていけるようになったわけです。

 もちろん、制作費を出してくれるパブリッシャーがいないので、全てが自前です。小企業である弊社には、とってもリスキーです。それに、作って以降のこと、宣伝する、売る、サポートするという、今までパブリッシャーさんにお任せっきりで、全然ノウハウのないことまで自分たちでやらないといけません。作るまでのストレスがなくなった分だけ、今までにないストレスが生まれて、どっちがよかったか、微妙なところではあります。でも、少なくとも精神衛生上は、今の方がうんといいと断言できます。

 最近、そこら中で「多様性」という言葉が聞かれます。ダーウィンの進化論の中核をなすこの言葉は、ゲーム業界に合わせて言えば、世の中、何が当たるなんて誰にもわからない。いろいろなタイプのゲームが生まれて、たまたま市場に合ったゲーム(とそれを作った会社)が生き残り、他は淘汰されていく。それがゲーム(業界)の「進化」だ。ということになります。

 この法則が、いわゆる「ゲーム機」の世界では崩れてきている気がします。作る方も買う方もお金がかかる。そのため、売れそうなゲームだけが出る。同じようなタイプのゲームが増える。その中でベストワンになるため、質とボリュームを上げようとする。制作コストはあがっていくばかり。ゲーム種が限定されて、特にライトなお客は減っていく。市場は小さくなる……。もうすっかりその世界の傍観者となっている自分としては、やっかみ含めて、そう感じるのでした。

 というわけで、メインの戦場をスマートフォン(当面 iPhone のみ)に決めた自分たちです。でも、ゲーム機用のゲームを作っていたときと同じように、企画を考えるときは、そのゲームがいじられる世界、環境みたいなところから想像を始めます。

 朝起きてメールをチェックしたついで、昼飯を食いながら、つまらない会議の最中、ともだちが待ち合わせに遅れているとき、通勤電車の中、ちょうど電車が出てしまった直後、風呂の水がたまるまでの待ち時間など、そんなときを想定します。つまり、何かをするには足りない小銭のような時間。その時間を有効活用できるような遊び。1 回は数分程度。でも、1 日に何度もある。そんな時間と頻度で遊ぶ遊びって、どんな遊びがいいだろう? そこから発想をスタートさせます。

 そばに、お菓子と飲み物を用意して、宿題を終えて、トイレにも行って、場合によってはあらかじめ仮眠をとって、万全の体制で、じっくり腰を据えてさー遊ぶぞ! というゲーム機用のゲームの環境とは全く違うはず、ゲーム内容、ボリューム、それにゲームをする人の層もそれとは全然違うはず、と考えています。

 そんな環境で遊ぶ 3K ソフト。「ゲーム」っていう言葉でははみ出してしまうこともあるだろうなとも思っています。