【54】ときには匿名で活動してみよう
ゲームクリエーターは、ゲームをクリエイト(創造)する職業です。しかし好き勝手に何でも創造すればよいというわけではありません。変なものを作れば人をがっかりさせてしまったり、大切な信用を無くしてしまうこともあります。製品を購入するユーザーや、予算を出してくれるクライアントを裏切るわけにはいかないのです。そういった数々の制約を乗り越えた上で独創的な創作物を世に送り出していくのが、プロのクリエーターとしての務めというものでしょう。
しかし、創作活動の中には、そういった枠組みの中に収めることが難しい種類のものもあります。たまには肩の力を抜いてヘンなものを作ってみたり、理解されるかどうかも分からない実験的なものを作ってみたりしたいですよね。そんなときに勧めたいのが「匿名で活動してみる」ということです。
インターネットの普及によって人々が得たもののひとつが、活動の匿名性です。インターネットの世界においては、実世界の物理的なコミュニケーションを介することなく、様々な活動が展開できます。誰でも気軽に、自分自身とは紐付けられていない別人格を作り出し、その別人格に活動を担わせることができるのです。
あなたがインターネット上に作り出す別人格は、この世の中に対して何のしがらみも持っていない、まるで赤ん坊のように無垢な存在です。その無垢な存在に、あなたの持つすべての知識を流し込み、活動させるのです。その存在が大きくなるまでの間は、子供のときのように自由な気分を味わいながら、新しい創作の世界に浸ることができるでしょう。
匿名で活動する理由は、それだけではありません。匿名での活動は、あなたが物事をアウトプットするときに費やす労力を減らしてくれるかもしれないのです。
どのような活動をするときでも、その過程や結果をこまめにアウトプットしていくことが重要です。活動の結果を自分の内省的なものとして閉じ込めてしまうのではなく、外に出し他人と共有することによって、目に見えるものとしていくのです。活動によって自分が得たものの「見える化」であると言ってもよいかもしれません。
しかし、物事をアウトプットするというのは、それはそれで大変なことです。ちょっとでも気を抜くと、その見た目を必要以上に良くしようと余計に頑張ってしまったり、恥ずかしさから出そうとしていたものを引っ込めてしまったりと、アウトプットの速度が低下してしまうことがあります。自我を持っているからこそ発生してしまう、「アウトプットに対する負荷」です。そうしてアウトプットが絞られるうちに、自分が何をしていたか、どこへ向かっているのか、どこまで進んできたのか、分からなくなってしまうのです。
そのような難しさを感じた時にこそ、匿名で活動してみましょう。アウトプットするのに邪魔な自我を脱ぎ捨ててしまうのです。もはや、しがらみを感じながら遠慮がちに活動する必要はありません。作り出したものを積極的に世の中へアウトプットし、そこからフィードバックを得ていきましょう。そうして得られた経験や視点は、あなた自身の「本当の人格」へと吸収されていき、新たな創作活動の糧となってくれるはずです。
匿名での活動というものには、人から隠れてコソコソするようなイメージがあるかもしれません。しかし実際には、創作活動を能率的に進めるための手段でもあるのです。現代のインターネット社会でこそ得られる特権のひとつです。効果的に使っていきましょう。
最後にひとつだけ注意を。禁じられている行為のために匿名を使ったり、他人を攻撃するために匿名を使ったりすることは避けましょう。インターネットの匿名性は、そのような行為から個人を守ってくれるご都合アイテムではありません。あくまでもポジティブに、楽しく匿名性を使っていきましょう。