【53】「伝える」プロデュース

高木 謙一郎

 プロデューサーの仕事は、ひとことで言えば「商品の販売により、最初に預かった資金を増やす事」です。そこで必要になるのは、コストの抑制と売り上げの増大です。両方とも難問ですが、後者は他者に商品価値を伝える事ができているかどうか、が決め手になります。

 ゲーム開発者の中には「このゲームは、実際に遊んでもらえれば絶対に面白いのに」と言う人がいます。しかし、これは当たり前です。社内の企画競争を勝ち抜いたアイデアを、経験を積んだプロが熱意を持って形にしたゲームが面白くないはずがありません。そして、このようなゲームが今の世の中にはあふれています。最近ではゲーム機用だけではなく、携帯電話機用のゲームも大流行しています。また、新作ばかりではなく、昔のゲームにも面白いものが沢山あります。つまり、ユーザーにとっては潤沢な選択肢があり、その中から手に取ってもらい、購入してもらわなければなりません。

 そこで重要になってくるのが、ゲームの面白さを一瞬で伝え、興味を持ってもらうための見せ方です。

 例えば、私がプロデュースしたゲーム『閃乱カグラ』の場合は、立体視機能の応用として実は誰でもが考えるであろうことをストレートに出すようにしました。『勇者 30』では「30 秒で世界を救え」「魔王が世界を滅ぼすまであと 30 秒」などをキャッチフレーズにして、何だそれ!? と突っ込みたくなるような仕掛けを作りました。もしかしたら、バカバカしいと思われるほどのシンプルさで、見る人の興味を一瞬で惹くための工夫です。興味を持ってもらえれば、遊んでもらえるチャンスが増えます。ゲームの中身は大真面目に作っていますから、必ず楽しんでもらえる自信があるからこその「つかみ」重視策です。

 このような考え方に至るのには、いくつもの経験が必要でした。私は、プランナーとしてゲーム開発の世界に入りました。そのころは、自分が面白いと思うものを企画書に書いていましたが、これを「売り込む」ということはあまりしていませんでした。もしかしたら「企画書」というより「仕様書」や「説明書」に近いものを書いていたのかも知れません。その後、プロデューサーという立場になって、プロジェクトメンバー、他部署、経営陣、パブリッシャーなどへの企画プレゼンを行うようになりました。そして、東京ゲームショーなどで当社のゲームの試遊台に立ち、興味を惹けないと 5 秒で立ち去ってしまうお客様の反応を生で体験しました。

 そのような体験から学んだのが「一言」の重要性です。企画内容を含めても、ペラ 1~2 枚で書けないものは、企画者の中でアイデアがまとまっていないのだと思います。「遊んでもらえたら面白いのに」は通用しません。そして、プレゼンの相手によって、その「一言」は工夫が必要です。ユーザーに対する「一言」と、予算や人員獲得のために経営陣に対して行うプレゼンの「一言」は違うものになるはずです。いずれにせよ重要なのは、プレゼンの相手が何を求めているか? を理解し、そこに刺さる「一言」です。企画書であれば最初の 1 ページ、プレゼンならば最初の 5 秒が勝負です。

 かつて専用ゲーム機が全盛だった時代とは異なり、オンラインマーケット上に安価なゲームが数多く流通するようになりました。今や、面白いゲームを 100 円未満でも買うことができます。個人や独立系の小チームでゲームを開発し、成功するケースも増えています。また、スマートフォンに代表されるような非ゲーム専用機の普及により、ゲーム以外のエンターテインメントとの直接的な競争も起きています。ユーザーの選択肢が増える事は良い事ですが、開発し供給する側にとっては競争の激化を意味します。そのような中で、ゲーム開発を専門とするプロフェッショナルとして、面白いゲームを作り続ける事はもちろん、それが宣伝とは違う意味合いで「伝える」「伝わる」ことの重要性がますます高まっていくことでしょう。