【61】チームのために働く

カレン・ギリソン(Karen Gillison)
アメリカ、バージニア州リーズバーグ

 私はアジャイル開発について耳にするずっと前に、これまで出会った中で最高のプロジェクト・マネジャーと仕事をする機会を得ました。今考えてみると、彼はアジャイル開発の原型とも言えるテクニックを駆使していました。彼は自分の仕事をチームのファシリテーターだと考えていました。障害を見つけて取り除き、チームにリソースを提供すること、それが自分の日々の務めだと考えていたのです。彼はチームのベロシティを高めるのに役立つことを日々実践していたのです。

 何時間もかかるようなミーティング、状況をアップデートするのに自分の順番が来るまで睡魔と戦わなくてはならないようなミーティングはありませんでした。ミーティングから抜け出してコードを書きたくなる、そうすれば次回のミーティングに報告すべき進捗があるのに、と思うようなミーティングもありませんでした。そういったミーティングの代わりに、プロジェクトの開始時には、要求からテストまで、さまざまな職務権限をもった人たちを集めたキックオフミーティングが開かれました。プロジェクトのビジョンと理解を共有するために、チーム全員が一堂に集められたのです。以後プロジェクト・マネジャーは数日おきにやって来て、「出入り口」でのステータスミーティングと呼ぶミーティングをやりました。そこでチームメンバーは、何が完了して、何が進行中で、どんな問題があるのか、状況を簡単にアップデートしました。

 このプロジェクト・マネジャーはプロジェクトステータスをはっきりと目に見える形で記録しました。彼はだれがそのタスクを完了しなくてはならないのか、すべての割り当てのマスターとなるリストを作りました。このドキュメントは定期的に更新され、大きくプリントアウトされて出入り口の外に貼られました。全員が見えるところに貼られていたので、チームのコミュニケーションにはもってこいでした。おまけに上位レベルの管理職からも状況が見えるようになり、彼らの好きなときにいつでも自分で最新状況が得られるようになりました。

 「エゴ」について一言注意しておきましょう。私のお気に入りのプロジェクト・マネジャーはできた人で、自制心があり、エゴを避けていました。彼は上司でしたが、職権を乱用したり、思いつきでタスクを変えたり、方針を変更したりはしませんでした。彼の行動がチームの生産性に害を及ぼすことは一度もありませんでした。なぜなら彼の一番の目標は、自分のチームが卓越したチームに進歩するのを助けることだったからです。

 エゴを制することで、彼と彼のチームは、エンドユーザーと上位レベル管理職を満足させて、予算内でかつ時間内にすばらしい成果を上げました。このマネジメントスタイルはとても効果的で、プロジェクトの終わりには、徹夜仕事や怒鳴り声、ストレスといったものはほとんどなくなりました。あまり成熟していない企業だと、こうしたプロジェクト・マネジャーと順調に進んでいるチームは評価されないかもしれません。なぜならどのプロジェクトも簡単なように見えてしまうためです。たとえ認められなくとも、企業とエンドユーザーがお互いを正当に評価することで、チームメンバーには満足感がもたらされます。

 今ではアジャイルアプローチが優れたプロジェクト・マネジャーになるための新しいツールを提供してくれます。アジャイルアプローチについて、よく理解することをおすすめします。たとえ運がわるくて、こうした方法論を採用していない組織で仕事をしていてもです。その場合には、こうしたツールを従来のプロジェクトマネジメントの道具箱に組み入れましょう。プロジェクト・マネジャーの重要な役割のひとつは、チームのベロシティを高めること、そして、生産性を阻害するものがほとんどないチーム環境づくりを目指して努力することだと自覚しましょう。