【89】「ゲーム」を「デザイン」するということ
この章では、ここ数年でだいぶ一般的になってきた「ゲームデザイナー」という職業、およびその言葉に込められた意味について、同じ業界内でもゲームデザイナー以外の人、あるいは今まさにゲームデザイナーを目指している人に対して、簡単に説明していきたいと思います。
「ゲーム」とは
ここで「ゲーム」という言葉の定義をするつもりはありません。ただ一点だけ、どうしてもはっきりさせておきたいことがあります。それは世にあふれるゲームデザイン談義では、コンピュータゲームとそれ以前のゲームを一緒くたに議論して、収集がつかなくなっていることがたまにありますが、この 2 つには決定的に違う部分があるということです。
コンピュータゲームが登場する以前は、ゲームは基本的には複数人数が参加し、明文化されたルールの下、お互いの腕前を競い合うものでした。ところがコンピュータが登場し、他の参加者の代わりをコンピュータが務められるようになると、全てのルールが明記されない、完全に 1 人で遊ぶことを前提としたゲームが作られ、独自の進化を遂げていくことになりました†。
これは良い意味でも悪い意味でもコンピュータの処理能力の限界によるもので、人間では判定し切れないほど複雑なルールでも、コンピュータ上では簡単に処理できたりする反面、多様性を出すのは苦手なので、新しい要素を次々出すことによって、プレイヤーを飽きさせない工夫も必要だったという経緯があります。
コンピュータゲームも、それ以前のゲームも、究極的にはプレイヤーをある一定のルールに従って行動させ、非日常的な体験をさせるという部分では共通していますが、そこで用いられる手法や、そもそもゲームを通じてプレイヤーに何をさせたいのかという部分に大きな違いがあるのです††。ゲームデザイナーといっても、ゲームの種類だけ多種多様なスキルが存在し、人によって得手不得手があるということは覚えておいて頂けると幸いです。
- † 明文化されないルールとは、敵 AI の挙動であったり、アイテムの隠しパラメータであったり、ゲームを始める時点では知る由もない、ゲームをクリアしても知ることがないようなルールのことです。これはよく引き合いに出されるカイヨワやホイジンガの頃にはなかった、コンピュータゲームに特徴的な構造です。
- †† 特に 1 人で遊ぶことを前提とした、世界を体験させることに主眼を置いたゲームでは、新しいゲームシステムや練り込まれたルールはそこまで重要ではなく、プレイヤーにどんな体験をしてほしいのか、そのためには何をどう見せればいいのかといったような、舞台演出の手法が重要になってきます。
「デザイン」とは
辞書的な説明をすると、デザインとは設計・構築・計画のことです。これらに共通しているのは、ある目的のために、既存の手法を用いたり、新しい技法を開発して、何かを作り上げることだと言えます。
ここで大切なのは、デザインには目的があるということです。目的を果たせていない製品は、デザインとしては失敗です。それがアーティスティックな価値を持つ場合もなくはないですが、まず明確なコンセプトがあり、それを実現するためにさまざまなものを組み合わせ、製品を作っていくのがデザインという行為です。
逆に言うと、コンセプトを阻害する要素は徹底して排除していくのもデザインだと言えます。日本的なものづくりだと、あれもこれもと機能を詰め込みすぎて、一体当初の目的が何だったのかよくわからない製品になりがちですが、コンセプトをはっきりさせ、必要ないものはばっさり切り落としていくのも、デザイナーの重要な役割でしょう。
「ゲームデザイナー」とは
以上のことを踏まえると、ゲームデザイナーとは、プレイヤーにどんな体験をしてほしいのかというコンセプトを打ち立て、それを実現するためにさまざまな技術や手法を組み合わせ、1 つのゲームを作り上げる職業だと言えます†。これからゲームデザイナーになろうという人は、実現したいコンセプトに使える技術や手法をどれだけ知っているかが武器になります。
また、ゲームデザイナーが突拍子もないことを言い出して現場が振り回されたという話もよく聞きますが、その背景には何らかのコンセプトがあって、それが上手く伝わっていなかったことが原因だったりします。まずはコンセプトをしっかり共有するところから始めれば、お互い幸せになれるのではないでしょうか††。
- † コンセプトを立てるのと、それを実現するのはまた別の職能だったりするのですが、兼任していることも多いです。俗にいう 0 を 1 にする仕事と、1 を 10 にする仕事です。前者ができる人は圧倒的に少ないです。
- †† 問いただしても明確なコンセプトがなかった場合はしばき倒していいと思います。