【13】テクニカルサウンドデザイナーという存在

稲森 崇史

 テクニカルサウンドデザイナーという名前を聞いたことがありますか? サウンド開発の技術的なサポート役を担う人のことです。テクニカルアーティスト(=アーティストとプログラマーの架け橋)のサウンド版と考えてもらうとわかりやすいでしょう。まだメジャーな職種ではありませんが、今後注目される存在になってくるはずです。

 ゲームに音をつけるには、音楽、効果音、それからボイス……だけでは足りません。音をつけるには、素材以外に「音の作り方・鳴らし方・管理方法」など全てをひっくるめた「音を扱う仕組み」が必要です。サウンドとプログラムの両方に精通し、これらの面倒を見るのがテクニカルサウンドデザイナーの仕事です。例を挙げてみます。

 こういった仕事は実のところ特別なものではありません。ただ、普通なら「こんな音の演出をしたいので実現できるようにしてください」とプログラマーにお願いするところを、テクニカルサウンドデザイナーはさらに一歩踏み込んで「このツールで作業してデータの形式はこうしますので、プログラム側の処理はこんな風にしてください」のように作業工程を細かく提示し、場合によっては自分でスクリプトを書いたり、ツールを作ったりもします。まさにサウンドとプログラマーの架け橋というわけです。

 なぜこのような専門職が必要になるのでしょうか。いくつかの理由があります。

 1 つ目の理由。ゲーム開発はコンシューマ・モバイルに限らず、より少人数かつ短時間で行う方向へ向かっています。プログラマー 1 人あたりの作業が増えていく中で、サウンド側から具体的な設計指針を示せればプログラマーの負担を大きく減らすことができます。当然それは最終的な音のクオリティに直結します。

 ゲームエンジンやミドルウェアでカバーできるのでは? という考え方もあります。それで全てを補えるならよいかもしれません。しかし、個人的にはエンジンがどんなに進化してもプログラマーの手を借りずに済ますことは不可能だと思っています。まず、全てに対応したサウンド処理の実装には途方もないコストがかかり現実的ではないということ、そしてクリエイターの発想はエンジンでできることを常に超えるものだからです。

 次に 2 つ目の理由。サウンド開発のアウトソース化は今後さらに進みます。国内だけに限らず、今やその気になれば海外の作曲家やハリウッドの音響制作チームの力も借りることができる時代です。先進諸国以外でも高品質な音(しかも低コスト)を作るところが出てくるでしょう。さらには、サウンド制作会社が素材制作のみならず「ゲームエンジンやミドルウェアを使った音の組み込みまでを請け負う」ことも常識化してくると思います。そのとき、技術的な側面も含めてアウトソース先を適切にフォローしていけるかが成功の分かれ目になります。

 そして 3 つ目の理由。進化の著しいグラフィック分野と比べるとサウンド分野はまだまだ伸びしろが残されています。開発現場での試行錯誤や、学術文献からヒントを得て新しい技術を生み出すなど、サウンド分野全体の発展につながるアプローチが多く必要です。そのためにはサウンドとプログラムの両方を理解している人が不可欠です。

 このように、縁の下で支える存在でありながら同時に次世代のサウンド開発への最前線とも言える立ち位置、とてもユニークで魅力的に感じられませんか? テクニカルサウンドデザイナーに求められる必須スキルは「音作りへの理解・新技術への興味・プログラム知識」です。最初の 2 つはある程度のサウンド開発経験を積んだ方なら誰もが持っているものです。残るプログラム知識の習得は一朝一夕にはいきませんが、そのハードルを越えて新しい職域を担う人が増えてくることを願っています。