【08】代替現実感の作り方

竹内 ゆうすけ

 子どもの頃、私はよくブラウン管の中に入りたいと思っていました。

 私に限らずゲームやアニメに慣れ親しんだ人であれば、その世界に入りたいと願ったり、ブラウン管から自分の好きなキャラクターたちが出て来てくれないかなと願ったりした経験が、多かれ少なかれあるのではないでしょうか。

 今、大人になった私はそんな夢を実現してくれるゲームの制作者になりました。そのゲームは ARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)と呼ばれています。

 ちなみに、よく AR(Argumented Reality:拡張現実)と間違えられますが、まったく別モノです。

 ARG はパソコンや専用ゲーム機で遊ぶデジタルゲームではありません。もともとは北米で映画のプロモーションとして生み出された手法に後から名前が付いたものです。その大きな特徴は、ゲームの主人公が「アバター(ブラウン管の中で自分の代わりとなる勇者)」ではなく「自分自身(現実世界の自分)」だという点です。つまり、ARG のプレイヤーは自分自身のまま世界の危機に立ち向かうことになったり、自分の命を狙う殺人鬼から逃げたりすることになります。ゲーム世界の架空の出来事があたかも現実世界で本当に起きているような感覚、ゲーム世界の架空のキャラクターが現実世界で本当に生活しているような感覚を、ARG のプレイヤーは感じることができるのです。

 この感覚を、我々は「代替現実感」と呼んでいます。

 私が ARG を企画する際、この「代替現実感」をどうやってプレイヤーたちに感じてもらうかを考えます。

 基本的なアプローチは、現実世界に実在するものに架空の世界の内容を紛れ込ませる方法です。

 たとえばソーシャルネットワークサービス。架空の人物のブログや Twitter が、ゲーム開始の数カ月前から人知れず更新され続けている。

 たとえばポスター。スタッフクレジットの中に架空の人名や企業名が載っている。

 たとえば電話。架空の人物(の声優)がメッセージを吹き込んだ状態の留守番電話を見つけて再生させる。

 たとえば物語の舞台となる地域。実在する地元商店の店員に、架空の人物の目撃証言を話してもらったり、直筆の伝言メモをあずかってもらったりする。

 現実世界に存在するものの数だけ、方法があります。私が扱う案件はアニメーション作品のプロモーションが多いので、原作となる作品の世界観に合った方法の中から費用対効果が高いものを選んで仕掛けを作ります。そしてゲーム展開の起承転結に埋め込んでいきます。

 「代替現実感」を伴って得た情報は、体験としてプレイヤーに内面化され自身の歴史の一部となり深く長く残ります。ARG は、デジタルゲーム業界を含むコンテンツ業界が近年直面しているソーシャル化の流れの中にも位置付けられると言えます。