【03】ゲームデザインの向こうを見たくはないか?

高橋 勝輝

魔王「『ゲームデザインの向こうに何があるんだろう?』って思ったことはないかい? 『 ゲーム業界の向かう先には何があるんだろう?』ってワクワクした覚えは?」

ゲーム開発者(以下、「ゲ開」と略)「そりゃ……あるけど。わりと、沢山」

魔王「そうだろう? ゲーム開発者だものな!」

ゲ開「何でそんなに嬉しそうなんだよ」

魔王「だから、そういうものが見たいんだ」

ゲ開「……ゲーム開発者になりたいのか?」

魔王「近い。でも、違う。だって私は学者なのだろうし、いまのこの身は魔王だ……」

魔王「見たことがないものは、見てみたい」

魔王「だから、もう一度云う。『この我のものとなれ、ゲーム開発者よ』私が望む未だ見ぬものを探すために私の瞳、私の明かり、私の剣となって欲しい」

ゲ開「断る」

魔王「交渉の余地はないのか?」

ゲ開「ない」

魔王「あると見た」

ゲ開「くぁ、なんでそこで上目遣いなんだよ。学者がとって良い態度かよっ」

魔王「デザインという言葉は、じつは様々な分野に多数存在している。ゲーム業界では、ゲームデザインをはじめ、キャラクターデザイン、プロット(シナリオデザイン)、舞台設計、ユーザーインターフェースデザイン、作曲(音のデザイン)等がある。マンガ/アニメなら、ネーム/絵コンテ。広告関係ではコミュニケーションデザイン、ペルソナ設計。本では書籍デザイン。アパレルデザインに、インダストリアルデザイン、建築設計、店舗デザイン。行政では、都市計画、道路計画、交通計画、計画制度、コミュニティデザイン。教育では授業デザイン、教育課程、教材設計。学問の世界ではモデルデザイン、制度設計なんてものがある。特にメカニズムデザイン理論は、2007 年のノーベル経済学賞を受賞したんだ。他にも、まだまだ数え切れないほどあるぞ」

魔王「世界大百科事典 第 2 版によれば、『〈デザイン design〉は、〈指示・表示する〉を意味するラテン語の動詞 designare に由来する語であるが、今日のように、ある具体性を伴って用いられる〈デザイン〉はアングロ・サクソン系の言葉である。この語を外来語としてそのまま使っているのは日本だけではない。もともとアングロ・サクソン系のデザインという言葉には、意匠と計画という 2 つの意味があり、この 2 つの意味を同時に表す言葉が他の言語では見つからなかったからである。』だそうだ」

魔王「我としては“仕組み設計” という日本語訳を与えたいと思う。例えば、ゲームデザインを“ゲーム仕組み設計” と訳すのだ。他のデザインと付く言葉についても、同様に当てはめてみてほしい。何かストンと腹に落ちるだろう」

魔王「ロールプレイングゲームのゲームデザインはデザインの中でも、最も要素が多く最も複雑なデザインのひとつだ。というのも、あらゆるデザインがほぼ全て入っているからだ。物理ルール、地形、国家制度、ファッション、キャラクター等々。世界のあらゆる仕組みを設計しているといってもいい。ゲーム開発者が“世界観” と呼んでいるものだ」

魔王「ここでゲーミフィケーションが登場する。ジェーン・マゴニガルの本『幸せな未来は「ゲーム」が創る』にもあるが、現実世界のあらゆることをゲーム化してより良くするものだ」

ゲ開「なるほど。この壊れた現実世界をデザインし直せと!」

魔王「そうだ。ゲーム開発者はその技とノウハウをすでに持っている。しかも、どんな分野のデザイナーよりも広く網羅的な。あとはゲームではなく、対象を現実世界のあらゆることにするのだ。横井軍平の『枯れた技術の水平思考』ってやつだ。ゲーム開発者よ、ワクワクしてこないか」

ゲ開「じゃあ、何からゲーミフィケーションする。魔王、お前のリクエストは何だ?」

※『まおゆう魔王勇者』(著者:橙乃ままれ)より引用しアレンジしました。