【61】コミュニティ時代におけるゲームビジネスの一提案

土屋 暁

 ゲーム業界は絶えず変化してきました。特に、ここ最近の変化は目覚ましいものがあります。それは、取り巻く社会そのものに大きなパラダイムシフトが発生している、すなわち本格的なネットワーク社会の到来によるものです。

 ネットワーク社会の到来は、人々の「認知」の方法を大きく変えました。ネット時代における認知とは、個人により主体的に選択された、すなわち、自分流にフィルタリングされた情報です。全ての人が、テレビで言えば何万というチャンネルから自由に選局しているようなものです。

 このような時代の中で私は、今後ゲームにとって「コミュニティ」が大変重要な要素になると確信しています。従来、殆どのゲームソフトは、雑誌などで宣伝をし、如何にしてそのソフトを買ってもらうかに主眼が置かれていました。ですが今後は、「ソフトを売る」のではなく「コンテンツを育てる」ことが大切になってくると考えています。「売ったら終わり」ではなく、「ユーザーと共に育てていく」のです。

 現代において、ユーザーは(広告によってではなく)自らが本当に良いと思ったものを選択し、数多の中からチョイスします。これは、新しいソフトが発売されると、そちらにどんどん移って行ってしまうという行動にもなります。ですがそれは、ユーザーにとってそのソフトが「終わってしまった」為であり、終わらなければ(一時的に別のソフトに移ったとしても)必ず帰ってきます。なぜなら、そのソフトの世界や要素が好きであれば、本当はもっとずっと長く遊んでいたいからです。

 昨今、制作側も顧客減少と広告の対費用効果の悪化などで苦戦を強いられています。だからこそ、一度好きになってくれたユーザーと共にコンテンツを創りあげていくスタンスを構築し、成長させることが重要となってきます。一定の購入層が定着し、固定客、固定ファン層が形成されれば、毎回のタイトル、コンテンツのリリースに際し、ある程度安定した収益の確保と販売予測ができるようになります。それはファンにとっても安定供給という形で、安心をもたらすことになると考えます。

 つまり、ユーザーにとってもメーカーにとっても、「息の長いコンテンツ」が求められています。

 では、どのようにすれば息の長いコンテンツを成す事が出来るでしょうか。従来、殆どのゲームソフトの営業戦略では、如何にしてそのソフトを買ってもらうかに主眼が置かれていました。ですが今後は、「ソフトを売る」のではなく「コンテンツを育てる」ことが大切になってくると考えています。「売ったら終わり」ではなく、「ユーザーと共に育てていく」のです。これを実現するには「コミュニティ」こそがその鍵となってきます。ここでいうコミュニティとは、開発、メーカーも含めた対話体制のことを指します。このネットワーク時代において、ユーザーとメーカーが繋がる事は、さほど難しい事ではありません。10 年前は、ゲーム制作会社はユーザーにとっては彼方の存在でしたが、今はそうではないのです。

 開発状況をユーザーに伝えたり、様々なファンイベントを開催したり、直接対話をする場を設けたりといった、過去には為し得なかった事が今は可能になりました。ユーザーと企業との信頼関係は、テレビ CM を中心としていた時代より遙かに重要な要素になっています。それは、ユーザー一人一人が自分の手によって情報を取捨選択し、ユーザーがメーカーを「選ぶ」時代になった為です。従来の商品開発、販売手法について、一度客観的に見直してみる事が大事かと思います。今の時代にマッチしているか、ターゲットユーザーにとって魅力的であるか、そして持続的なコンテンツとして育てる事が出来るか、今一度精査することで、今まで見えてこなかった穴やギャップが見えてくるかも知れません。

 例え市場規模は小さくとも、ユーザーとのコミュニケーションを大切にし、末永く持続可能なコミュニティを形成することは、この多様化の時代においては 1 つの魅力的なビジネスとなるでしょう。それはメーカーのみならず、ユーザーにとっても、です。