【60】まず、今居る場所で改革せよ

土田 善紀

 「もうこんな会社は嫌だ」「あいつの下で働くのはまっぴら御免だ」

 よく聞く話である。別にゲーム業界に限らず、どこの業界でも頻繁に耳にするセリフだ。かくいう私も既に転職回数は 5 回を数え、現在の職場は 6 番目となる。ゲーム以外でもプログラマとして様々な業界で働いて来たし、バイトを雇いながらの個人経営者も経験してきた。その私自身の体験から、今を悩む皆さんに何か役立つ事を伝えられたらと思う。

 会社を辞めたい、転職をしたい、部署を変わりたい。そう感じるのは今やごく当たり前の感情だ。むしろ一度もそう感じない者が居たら、その方が異例ではないだろうか。皆さんも日々何かしらの苦労をしていると思う。ゲーム業界で言えば締切直前のハードワークや、円滑に仕事をしていく上での人間関係などが槍玉に上がる点かもしれない。

 だがちょっと待ってほしい。今が嫌だからといって職場を変われば何かが“勝手に”好転するとでも思っているのだろうか? だとしたら、それはあまりに早計だ。

 では現状に不満が鬱積している場合、一体どうすれば良いのか。私がここで提案したいのは、今居る場所で改革せよ、という事だ。

 改革は自己かも知れない。自分のものの見方が変われば、それだけで世界は一変する。先日同じ業界で、コンシューマー部門からソーシャル部門に異動になった友人がいた。彼は「ゲーム」が作りたい、こんな仕事は嫌だ、辞めようか、などと愚痴をこぼしていたので、それを見た私は言った。「何? ソーシャル!? それは面白そうな仕事だな!」予想とは逆の反応を受け、彼はもっとハイエンドな技術探求やゲーム作りをしたいのだと言う。ビジネスに特化したソーシャルは嫌だと言う。それを聞いて私は提案した。「ソーシャルと言えばサーバーサイドや Web 技術や通信やログ解析が先端だが、そこに興味ポイントは無いのかい? それらを習得出来る絶好のチャンスじゃないか!」彼の反応は一気に好転した。要はものの捉え方である。同じ仕事、同じ内容でも見方さえ換えれば面白いし、それを誤れば極端につまらないものになってしまう。

 改革は他者かも知れない。嫌な上司、気が合わない同僚が居るのかも知れない。もし、そんな奴の為に自分のキャリアを変更しようとしているのだとしたら、なんと勿体ない! この場合、利己的に見れば変更すべきは君ではなく、むしろ彼らの方だろう。それ以前に、君はちゃんと彼らに向き合って自分の異議を話あったのだろうか。一人で悶々として一人で鬱憤を溜め込んでいるだけなのではないか? 真剣に正面から異議を申し立て、話し合い、相手にやめて欲しい事、変わって欲しい事を伝えよう。それでもダメなら、君が正しいと思うなら……「よろしい、ならば戦争だ」と高らかに宣言しよう。そして自分の思う事を説いて廻ろう。君に義があれば、周囲はきっと話を聞いてくれるだろう。状況によっては、直接の闘いを支援してくれはしないかも知れない。敵も増えるかもしれない。が、最悪でもこれを機会に、本当に信頼できる仲間を見分け、増やすことができる。

 改革は会社かも知れない。案件が通らない、希望を叶えてくれない、社会通念に反する行為をしているのかもしれない。この場合も、会社を去る前に徹底的に戦おう。戦いもせずに早々と撤退を決め込んで、会社の外から悪口を言うような恥ずかしい人間には決してならないで欲しい。

 やる事はやった、でも自分の居場所はここじゃない。そう感じるならば、その時は正々堂々と去ろう。「お世話になりました、勉強になりました、皆様のこれからの云々~」の社交辞令は正直聞き飽きました。せめて、これこれこういう理由で去ります、お前らも頑張れ、くらいのメッセージは残して行って欲しいものである。「転職して給料上がったよー、ヒャッハー!」と言い残して去った人がいる。いっそ清々しく、皆さんも是非見習って欲しいものである。