【42】普通になった「ゲーム」を作るときに知るべき 1 つのこと

椎葉 忠志

 あなたにとって、今でも「ゲーム」は特別なものですか? この問いへの答えは人それぞれでしょう。では、世の中にとって、今でも「ゲーム」は特別なものですか? 答えは明らかにノーです。

 かつて、3D ポリゴンでリアルに表現されたレースゲームや格闘ゲーム自体が新しい体験・価値でした。でも、全ての「新しい」は陳腐化します。ゲームも例外ではなく、もはや「日常」です。常にネットに接続され、遊ぶ場所や時間を選ばないモバイルデバイスの普及が、それを後押ししています。いつでもアプリを起動できて、いつでも気軽にスリープできるデバイスは、かつての家庭用ゲーム機とは異なる存在です。ゲームのために時間を作るのではなく、自分の時間の中でゲームを遊ぶようになりました。かつて、特別な存在だった「ゲーム」にお金を払うという事、ゲーム機を購入するという事自体が特別な体験で、価値の保証でした。もはや、それはありません。これが「基本無料」ビジネスモデルの下地と考えています。

 このような時代の変化に対応したゲームを作るにはどうすれば良いでしょうか? 矛盾するようですが、かつて家庭用ゲーム機で素晴らしいコンテンツを生み出したクリエーターが、その成功体験にとらわれずに、時代の変化を許容し、研究して、世の中のニーズに合ったゲームを作る。というのが私のたどり着いた答です。

 クリエーターは、本能的に自分の脳内を表現しようとします。新しい発明、新しい遊びをクリエイトすることを仕事として選んでいるのですから当然です。しかし、ゲームが「日常」となった現在においては、これだけでは通用しません。マーケットやユーザーの動きを見て、その数値指標から KPI 分析を行う必要があり、成功例がいくつも出てきました。しかし、ここで大切なのは、KPI 分析は既に起きた事象を表しているに過ぎない、ということです。「将来」でも「現在」ですらなく、「過去」です。ですから、KPI だけで面白いゲームは作る事は不可能です。

 では、どうするか。私は「ユーザーと同じレベルで考える」ということを重視しています。ゲームクリエーターは、自分の胸に手を当てて考えて欲しいです。果たして、僕はゲームについてユーザーより詳しいか? ユーザーよりも遊んでいるか? 先に述べた通り、ゲームは既に特別なものではありません。ゲームが一般化すればするほど、ユーザーの気持ちや、心の動き、ゲームを楽しいと思う感覚やゲームを続けるモチベーションについて研究しなければなりません。

 日本人には、子供のころからゲームを遊んでいるという大きな優位があります。これを活かすべきです。Aiming では「ゲームをやる人が偉い」という拘りを持っています。流行っているゲームを片端から遊ぶのがいいと考え、実行しています。そして、遊んだゲームについて複数人で品評会をやります。ひとりの評価は物差しが歪んでいるかもしれません。複数人の物差しを持ち寄る事で、本質が見えてきます。「自分基準」だけではなく「世の中基準」を得るためです。これは多数決でゲームを決めるという意味ではありません。深くゲームを研究し、面白さの本質を理解したうえで、最後はリードゲームデザイナやディレクタが決断してゲームを作るという事です。

 今、ソーシャルゲームで成功している方々は、ほぼ例外無く様々なゲームを研究されています。だから、ユーザーの心をつかむことに成功しているのではないでしょうか。流行っているゲームをとにかく徹底的に遊び、要素を分解し、考えて再構築し、次に評価されるゲームを考える。これこそが、「知るべき 1 つのこと」です。それは、かつての成功者といえども例外ではありません。なぜなら「成功」は既に過去の出来事だからです。