【41】趣味丸出しの製品づくりのために

佐野 信義

 私は、数年前に「KORGDS-10」という音楽制作ソフトを作りました。ニンテンドー DS 用の本格的なアナログシンセサイザーシミュレータであるこのソフトは、現場が作りたいものを作り、商業的にも成功するというレアなケースでもありました。その後も、KORGDS-10+、KORGM01、KORGiMS-20、IamSynth、iYM2151、IamSampler と、自分の趣味を丸出しにした製品づくりを行っています。うらやましいでしょう?

 なぜこのようなうらやましい製品づくりを続けられるのでしょうか?

 周りの人に恵まれていることは言わずもがなです。その上で、自分で心がけていることがあります。

 まず、なにかアイデアが浮かんだ時に、固めずにすぐに人に話しまくる事です。考えぬかれたアイデアを聞いても、人はそれに魅力的に感じません。そのアイデアは、もう完成されていて、他の考えを必要としないように思えるからです。そして、そのアイデアを聞いた人は、それをこと細かに批判していきます。つまり一人で長い時間をかけてアイデアを膨らまし、立派な資料をパワーポイントで作りあげてから初披露、などは一番やってはいけないことです。

 ところがいわゆるジャストアイデアは、相手の考えを柔軟に吸収できるので、味方をたくさん増やしていきます。味方が多い事は、あなたの素晴らしいアイデアを理想的な製品として完成させる可能性を高めます。

 また、考えぬかれたアイデアには、それ自体に余計な愛着が湧いてしまうのも欠点です。逆にジャストアイデアは、もともとそれほど思い入れがないので、もし話した相手の反応が鈍くても、感情的にならず別の話を始められるという利点があります。これにより相手には全くストレスを与えず、また、頭の切り替えが早いという印象を抱かせるので、あなたには、よりいっそう味方が増えていきます。

 加えて、固めずにアイデアを伝えようと思うと、結果的にアイデア自体を徹底的にシンプルにしようとします。これは、大量な情報が凄まじい速度で飛び交う現代においてはとても重要です。少なくとも 140 文字以下で伝えられないアイデアは、それがどんなに素晴らしくても他人に興味を持たれません。

 もう一つは、実際に製品づくりをしている時、あなたの製品に対する他人の色々なアドバイスで、どうにもピンと来ないものは、否定せず、実行しない、と言う事です。どんなアドバイスも決して否定はしないでください。否定された人は必ず傷つきます。傷ついた人は、あなたの味方にはなりません。でも、実行はしないでください。多くの人の意見を反映させた製品に魅力が乏しいことは、あなたも実感していることでしょう。

 とはいえ、否定をせず実行をしないなんて、アドバイスした人に嘘をつくことになるのでは? いいえ、あなたがピンとこないアドバイスをした人は、それが実行されるかどうかなど確認し続けるほど暇ではありません。いつどんなアドバイスをしたか、ともすると、アドバイスした事すら忘れているのがほとんどです。まさに「上司は思いつきでモノを言う」、のです。

 さて。

 実はこれら 2 つの事よりも、自分の趣味を丸出しにした製品づくりのために、はるかに重要なことが一つあります。

 それは、年をとる、ということです。

 全く同じ事を話しても、若いだけで否定され、年をとっているだけで肯定されます。若いあなたのアイデアが否定されるのは、アイデアが悪いわけではありません。あなたが若いからです。どんな人でも年をとるだけで、味方が増えていきます。つまりこれは「継続は力なり」の別解釈とも言えます。

 さあ、クリエイターのみなさん、頑張ってどんどん年をとりましょう。たくさんの味方に見守られて、あなたのやりたいことがそのまま出来る日々が、必ずやってきます。