【16】多様化するアニメーターの役割

金久保 哲也

 グラフィックス表現の高度化に伴い、ゲームアニメーションの制作現場では、複雑で高度なインタラクションの実現や、キャラクター動作のバリエーション肥大化への対応が課題となっています。こうしたアニメーション制作の課題に対して、キャラクター AI やダイナミクス、モーション自動生成などのプロシージャル・アニメーションを積極的に取り入れることで対応しようという試みがあります。

 プロシージャル・アニメーションは、シミュレーション技術をアニメーションに導入するものです。うまく用いることができれば、アニメーションの生産性を上げる事ができます。また、シミュレーション技術の導入により、表現の質を向上させる可能性もあります。アニメーターにとっては「多様な状況変化に対応したキャラクター挙動が表現できる」という表現の広がりとしてとらえる事ができます。ゲームデザイナーにとっては「キャラクターを動的にコントロールすることでゲームデザインの幅が広がる」という可能性があります。

 こうした兆しが感じられつつも、現時点でプロシージャル・アニメーションが実用化されている例は少ないのが現実です。シミュレーション技術のアルゴリズムが追求されていく一方で、どのようなアニメーション表現をしたいのか、表現する道具としての追求がまだ十分されていないことが原因と思われます。

 そのため、現状のプロシージャル・アニメーションに対して「予測不可能なキャラクター挙動をゲームシステムに入れたくない」と考えるゲームデザイナーや、「自分達が意図した通りにコントロールできないものをアニメーションに取り入れるべきでない」と考えるアニメーターのネガティブな意見は頷けるものがあります。また、既存のゲームタイトルにプロシージャル・アニメーションを取り入れようとする場合、確立したゲームデザインやアニメーションシステムとの間に矛盾が生じるという問題もあります。

 つまり、プロシージャル・アニメーションはアニメーション表現だけでなく、アニメーションシステムやゲームデザインと複雑に連携するため、既存の役割分担の枠組みにそのまま適用するのは困難ということです。プロシージャル・アニメーション自体を取り入れる、取り入れないという議論には、あまり意味がありません。プロシージャル・アニメーションを表現する道具として活用するためには、アニメーター、ゲームデザイナー、プログラマといった既存の役割分担を越えて議論を展開する必要があります。それぞれの分野に対するより一層の理解を深め、相互に影響しながら表現を作り上げていくという意識を共有した開発スタイルを構築することで、AI やダイナミクス、モーション自動生成などのプロシージャル・アニメーションを、インタラクティブ性豊かな新しいアニメーション表現のための技術として活用できるようになるでしょう。

 これまでのゲーム開発では、技術の進化と多様化に伴って、開発者の役割が専門化、細分化されてきました。プロシージャル・アニメーションのような、様々な要素が複雑に関係する次世代技術においては、既存の役割分担の再構築が重要になります。AI やダイナミクスなどの専門技術を深く追求するスペシャリストの存在は今後も重要です。同時に、これまで培って来たアニメーション技術を踏まえつつ、アニメーションシステムやゲームデザインなど様々な分野をクロスオーバーしていく次世代アニメーターが必要になります。このような次世代アニメーターは、キャラクターをコントロールし、次世代のインタラクションをデザインする、という新たな役割を担うことになります。