【14】面白くならなくてもいいから、短時間で作ってみよう

大前 広樹

 ゲーム作りが飛躍的に上手くなる魔法のような方法というのは存在するのでしょうか。魔法と言うには泥臭いやり方ですが、素早く経験値を得る方法は存在します。

 私が何年かのゲーム開発を通して学んだことが 3 つあります。それは「判断に直接参加したこと以外は経験値にならない」「開発したゲームは完成しなければその開発を通した経験値を得ることが出来ない」という 2 つの経験的事実と、それを逆手に取った手っ取り早い成長の仕方があるという事です。

 ゲーム開発には大きく分けて 2 つの側面があります。1 つ目は遊ぶ人の感情に訴えるコンテンツを作るという芸術的な側面。2 つ目はそうしたコンテンツを量産して一つのソフトウェアとして集積するという、工学的な側面です。この両方の判断に参加出来る立場は限られており、通常業務でこの両面の経験値を同時に得ることはなかなか出来ません。

 私は最近、業務外での小さなゲームの制作を通して、超短時間で作った小さなゲーム、荒削りで結果的に面白くならなかったゲームを通してでも、完成さえすれば沢山の経験値を得られるという事を学びました。

 小さなゲームでは、ゲームデザイン、美術、音楽、工学面など様々な要素に関して、常に中心メンバーとして判断に参加出来ます。また、それが有効であったかどうか、判断内容を鮮明に覚えているうちに検証することができます。そして何より、開発開始から開発終了まで、全てのことに主体的に関わることが出来ます。余計なシガラミがないだけに素直に反省出来たり、自分の生の実力が分かるという利点もあります。大きなゲームを開発している時には中々出会えない環境ではないでしょうか。

 ただし、小さなゲームの制作を通してより多くの経験値を得るには、幾つかの条件があります。「コンセプトを設定し、最後まで死守する・チームで制作する・時間制限を設け、時間が来たら強制的に完成とする」の 3 つです。

 コンセプトを設定し死守することは、ディレクションの経験値を得るための必須項目です。様々なアイディアの中から何をチャレンジするのか、何を捨てるのか、芸術面において成功体験を獲得するためには、なくてはなりません。

 チーム制作が必須である理由は大きく 2 つあります。一つはゲーム開発の必須事項であるワークフローの構築といった工学的な課題についての経験値を得るため、もう一つはコンテンツの制作において他人とコンセプトを共有する方法と、他人の成果を活かす方法を学ぶためです。この 2 つは極端な時間制限をするとより高い経験値を得ることが出来る傾向にあります。

 コンセプト設定、チーム制作、時間制限の 3 つの条件はお互いを補強し合うので、これが最小の条件設定ではないかと思います。条件を満たす小さなゲームの開発を過去に 8 時間~100 時間の間で 10 回程行ってきましたが、色々試した結論として一番お勧めな長さは 48 時間程度です。

 しかしながら、手っ取り早い方法とはいえ数日間の間本気でゲーム開発に参加してくれる仲間を数人集めて実行に移すのは、なかなかにハードルが高い行為です。こうしたことを実行するために、うってつけのイベントがゲームジャムです。ゲームジャムは 2~3 日という短期間で、集中的にゲームを開発するイベントです。大体のイベントでは会場からテーマが設定され、イベントに集まった人同士でチームを組んで開発を行います。最近は日本を含む世界中でゲームジャムイベントが活発に行われるようになってきました。ほとんどのゲームジャムでは 3 つの条件はクリアされているので、単身飛び込んでみるのもよいでしょう。

 短いゲーム開発の経験を手にすると、自分が重要な判断に参加していない(長期間の)ゲーム開発でも、コンセプトの維持や量産体制の整備など、沢山の重要局面においてその経験を活かせるようになります。たかだか 2,3 日の投資ですので、もしまだ試したことがないならば、一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。