【02】ビジネス・アーキテクトを目指せ

萩本順三

 ソフトウェア・アーキテクトの使命は、システム要件を満たすシンプルでわかりやすいアーキテクチャを提供することであり、その本質には、ビジネスの要望に応え、ビジネスの変化に耐えうるシステムのアーキテクチャを提供することがあります。よって、ソフトウェア・アーキテクトは、ビジネス・アーキテクトとしての素養を持つべきです。

 ビジネス・アーキテクトとは、ビジネス戦略に見合う業務オペレーションをユーザーと共に描くことができるようなスキルを持つ人々のことですが、ユーザー企業の中に、まだそのような人材がほとんど育っていません。なぜソフトウェア・アーキテクトはビジネス・アーキテクトであるべきなのでしょうか? それには 2 つの理由があります。

 まず 1 つ目の理由はソフトウェア・アーキテクトとしての責任からくるものです。そもそもソフトウェアのアーキテクチャはビジネスの変化に対応するような作りをしていなければなりません。さらに、ビジネスの価値を高めるアーキテクチャを提供するという観点では、ビジネス戦略や業務オペレーションを決定する際に、ソフトウェア・アーキテクトの考えが重要視される必要があります。ソフトウェアの機能的・非機能的な知識を持ったソフトウェア・アーキテクトのアイデアをビジネス戦略や業務オペレーションに投入することができれば、ビジネス価値が大きく膨らむことが期待できます。つまりは、アーキテクトの責任としてビジネスと IT を繋げることを努力すべきなのです。

 もう 1 つの理由は、ソフトウェア・アーキテクトの能力的な期待からくるものです。ソフトウェア開発者は、無意識のうちにビジネス・アーキテクトとしての基礎的な能力を持っており、ビジネス・アーキテクトの候補として最適だからです。そのスキルとは以下のように 4 つあります。

 これらの能力は、ビジネス・アーキテクトとして、ビジネス戦略を見える化し、合意を取り付け、業務オペレーションの ToBe の姿を設計する上で絶対的に必要とされます。ソフトウェア開発者の頂点としてのビジネス・アーキテクトは、上記スキルを意識して持っていることでしょう。もし、あまり意識していなければ、大いに意識してください。意識すればするほど、この能力は高まるからです。ユーザー企業では、このようなスキルを持つ人材が見あたらないのが現状だからです。もし、この領域にソフトウェア・アーキテクトの能力を使うと、ビジネス開発プロジェクト成功の可能性は高まるばかりか、最終的な IT の姿が手に取るように見せることができるでしょう。

 しかし、乗り越えるべき壁もあります。それは、まずはビジネスパーソンとのコミュニケーション術を磨くことです。ビジネスの観点で、ソフトウェア・システムを語るだけではなく、ビジネスパーソンとしての価値観を養うことが必要となります。その感覚を磨くには、常に目的意識を持つことです。目的からの視点で、仕組みを簡潔に語ることを訓練すれば、この壁も乗り越えることができるでしょう。