【49】アーキテクトは2つの顔を持つ

デビッド・バートレット

 ローマ神話のヤヌスは、出入り口と戸の守り神であり、始まりと終わりの神です。たぶん、コインや映画で見たことがあると思いますが、ヤヌスは、通常異なる方を向いた 2 つの顔を持つ形で描かれます。ヤヌスは、過去と未来、人が子供から大人になり、結婚して子供を産み、年を取るという変化、変遷を表しています。

 対象がソフトウェアであれ構造物であれ、過去と未来のように前後を見通すヤヌスの力は、アーキテクトにとって非常に大切です。アーキテクトは、ビジョンに現実の形を与え、過去の成功を将来の方向に接続し、開発上の制約の中でビジネスや経営者の期待を実現するために苦闘しています。このような橋を架ける仕事は、アーキテクトの仕事の重要な一部です。

 プロジェクトにはさまざまな力が作用を及ぼしています。たとえば、アクセスのしやすさとセキュリティ、現在のビジネス処理を満足させることと経営者の未来のビジョンを設計することのように矛盾する要求を抱えています。そのような中で、アーキテクトはプロジェクトを完成に近づけているはずなのに、システムの中の亀裂を広げようとしているような感覚に襲われることがあります。優れたアーキテクトは、2 つの矛盾した考え、目標、ビジョンを両立させ、プロジェクトに利害を持つさまざまな関係者を満足させるようなプロダクトを作るために、ヤヌスのように 2 つの頭を持たなければなりません。

 ヤヌスは、2 つの顔を持つだけではなく、2 つの頭を持ちます。その分、ヤヌスは、いろいろなことに気付くための目や耳を多く持つことができます。優れた IT アーキテクトは、話を聴き、評価する力を持っています。システムに投資した理由を理解することは、経営陣が持っている企業の将来像や目標を知る上で非常に重要です。

 スタッフの技術的なスキルとプロジェクトで必要になるテクノロジーを評価することは、プログラミングとトレーニングをどのように組み合わせればプロジェクトの成功につながるかを判断する上で役に立ちます。広く使われている市販ソフトウェアと相性のよいオープンソースソリューションを知っていれば、プロジェクトの日程と予算を大幅に圧縮できる場合があります。優れたアーキテクトは、開発プロセスに含まれるさまざまな要素に目配りをきかせて、プロジェクトの成功のためにそれを役立てます。

 マネージャーの中にはアーキテクトに神のような性質を期待し、求める人がいますが、ここでアーキテクトをヤヌスに比較したのは、そのような意味ではありません。優れたアーキテクトは、プロジェクト、チーム、キャリアを進歩させるような新しいアイデア、ツール、デザインに対して開かれた心を持っています。時間の大半を管理会議に費やしたり、逆にコーデイングばかりしていてはいけません。優れたアイデアは認め、アイデアが育つ雰囲気を作るのです。アーキテクチャーの世界で成功するのは、そのような開かれた心の持ち主です。プロジェクトに対して作用するさまざまな衝突し合う力を調整できる度量が必要なのです。

 最良のアーキテクトは、組織が成長し、技術が進歩する将来に向かって維持、拡大できるようなシステムを作るので、そのようなシステムは時間の試練をくぐり抜けて生き残ります。このようなアーキテクトは、人の話を聞き、評価し、プロセス、デザイン、メソッドをリファクタリングして、自分の仕事とプロジェクトを成功に導きます。間違いなくやってくる変化、変遷にシステムが耐えられるように全力を尽くすのです。

 アーキテクトに求めるべき心構えはこれです。これは単純ですが、実行するのは難しいことです。ソフトウェア・アーキテクトは、ヤヌスと同じように、出入り口と戸の守り神でなければなりません。過去と未来をともに見据え、創造性と確かな技術を組み合わせ、未来の期待に応える計画を立てつつ、今の要件に応える必要があります。