【36】役者ではなく執事になれ

バリー・ホーキンス

 アーキテクトは、プロジェクトに参加するときに、自分の価値を証明したいという気持ちを持っていますが、それは理解できることです。ソフトウェア・アーキテクトという役割を与えられるということは、会社が彼や彼女に信頼を置いているということを示しているわけですから、アーキテクトとしては、できる限り早くその期待に応えたいと思うのが当然でしょう。しかし、自分の価値を証明するということは、役者のような演技力を示すことだと勘違いしている人たちがいます。技術的な能力によってチームを混乱に陥れるところまではいかなくても、チームをまごつかせてしまうのです。

 聴衆にアピールする役者のような演技力は、販売推進では重要な意味を持ちますが、ソフトウェア開発プロジェクトをリードしていくためには逆効果です。アーキテクトは、リーダーシップを発揮し、技術やビジネスドメインに対する深い理解を示して、チームメンバーから敬意を集めなければなりません。

 他人の財産を管理し、責任を引き受ける執事のような能力こそ、アーキテクトにふさわしい能力です。アーキテクトは、顧客の利害のために行動し、自らのエゴのために言動をゆがめてはなりません。

 一般的に顧客はドメインの知識ということではソフトウェアアーキテクトよりも優れています。アーキテクトの仕事とは、そんな彼らのニーズに応えることです。ソフトウェア開発の仕事で成功を追求すると、コスト、実装の複雑さ、プロジェクトにかけられる時間と労力の間でバランスを取って、折衷的なソリューションを作ることになります。

 時間と労力は会社のリソースであり、ソフトウェア・アーキテクトは、自分の都合に左右されることなく、そのリソースを管理し、適切に使わなければなりません。最新のフレームワークや技術バズワードを駆使した過度に複雑なシステムは、会社のコストに何らかの犠牲がなければ、うまく動きません。アーキテクトは、投資顧問と同様に、自分の行動が投資に対して十分な見返りを生み出すという前提のもとで、クライアントの金を動かすことを認められているのです。

 役者ではなく、執事になりましょう。アーキテクトは、他人のお金で動いているということを忘れてはなりません。