【11】プロジェクトの条理と不条理

林 衛
日本、インド、中国、シンガポール、アメリカ

 プロジェクト活動は、必ず条理と不条理を含みます。これが、理解できていないリーダーは、条理だけを視野に置き、理想を目指しすぎて、失敗してしまいます。

 プロジェクトとは、人が、判断し、自ら決断し、実施する活動だからです。プロジェクトとは、達成目標を先に決めて、変革を創出する挑戦的で素晴らしい活動なのです。

 リーダーとメンバーが、前向きにいろいろな試みを行い、時には、間違いを引き起こしながらも軌道修正を図り、整えていきます。やがて、問題を克服し成功裏にやり遂げます。間違いや不条理が、問題なのではありません。学習と判断をしないのが問題なのです。強靭な精神ですべてを飲み込み、やり遂げるのです。完璧な計画や準備はありえませんが、できる限りの見通しを立てる努力は、重要です。

 ドラッカーは、1946 年に書いた『企業とは何か——その社会的使命』(ダイヤモンド社)の中で、企業のマネジメントについて次のように述べています。「重要なことは、正しいか、間違いかではない。うまくいくか、いかないかです。マネジメントとは、そのようなものです。」 また、マネジメントの値打ちについて、医療と同じように、うまくいくか、いかないかによって判断しなければならないと言っています。私は、ドラッカーの使う比喩で、医療とマネジメントを比較している点は、分かりやすく納得できる説明だと考えています。ここで言う「経営のマネジメント」を、プロジェクトのマネジメントに置き換えて実態と照らし合わせてみることで、プロジェクトの問題を浮き彫りにできるでしょう。私が、数多く関わってきた IT プロジェクトの現場では、30 年前と変わらず何が正しいか(正しい方法)のために時間が浪費されています。

 まさに知識労働の固まりといえるプロジェクトでは、何がなされるべきかが、第一の、しかも決定的な問題となります。プロジェクト活動では、いかに行うかは、何を行うかの後に来る問題であり、まずは、何がなされるべきかを追求します。それを行うことは、どのような理由(目的の明確化)があり、いかなる結果をもたらすのかについて、真剣に、しかも深く検討しなければなりません。プロジェクトの目的とビジョンを明確にし、責任と役割をアサインします。このことが各メンバーの腹に落ちていなければ成功はおぼつかないでしょう。プロジェクトには、論理的な構造だけではなく精神的な構造が存在します。

 私の見てきた様々なプロジェクトでは、プロジェクトを構成しているメンバーの多くは、いかにプロジェクトを行うかについての手段や技術について好きな人の集まりになりやすいものです。何がなされるべきかに責任を持てる人は少ないでしょう。繰り返し実施される IT や建築、土木などのプロジェクトでは、プロジェクトが、うまくいくための様々な工程と成果物、チェックポイントが方法論として定義されています。上流の要件定義(何を行うべきか)が最も重要な工程であり、次の設計(どのように行うか)以降の工程へとつながっています。しかしながら、何がなされるべきかを知らないマネジメント層が、実際には多くいます。メンバーも何も考えようとしないのが現実です。

 また、ドラッカーは、知識の生産性を上げるためには、結合することを学ばなければいけないと述べています。なぜならば、知っていることより知らないことのほうが多いので、知らざるものの体系化によって、価値を生み出す方法が重要になるということです。知識の結合は、まさに、プロジェクト活動にとって必至です。知識の結合には、問題解決の方法論よりも問題定義の方法論が必須です。知識や情報の分析とともに、問題へどう取り組むかの方法がより重要です。まさに複雑で多様な現代のプロジェクトは、このことで悩んでいるのではないでしょうか。

 私たちが、人生で学んだ様々な事柄は、そのまま、われわれが、苦しみながら取り組んでいるプロジェクトの問題・課題に当てはまっています。人生では、予期せぬことや不条理なことが起こります。同時に、予期せぬ成功や努力が実り喜べるようなことも同時に起こります。多くのプロジェクトが、知っていることよりも知らないことのほうが多いために様々な状況に遭遇するでしょう。

 つまり、プロジェクトの条理、不条理は、プロジェクト活動という性格上当たり前のことなのです。これを是として進めるべきです。決して、何の問題の起こらない、最初の計画したように進むプロジェクトを求めるべきではありません。

 最後に、プロジェクトの生産性向上のために必要なことは、メンバー(知識労働者)自身に、生産性向上の責任を持たせ、自らをマネジメントさせ、自立させることであり、プロジェクト活動中にもイノベーションを継続させることであると私は、考えています。

 私はプロジェクトで大切なことを以下のように考えています。

 これらが、できるかどうかが、われわれの問題です。