【05】プロジェクトによる人材育成

芝尾 芳昭 ME、DBA
東京

 プロジェクトは結果を問われるものなので、プロジェクト・マネジャーはプロジェクトを成功させようと一所懸命がんばりますが、プロジェクトの成功に人材の育成を意識している人は少ないかと思います。これまで、いろいろな人にプロジェクトの成功の条件を聞いてきましたが、「人材の育成」を成功の条件に挙げている人は 1 割にも満たないものでした。人材の育成がプロジェクトの成功条件に入っていないとなると、プロジェクトは人材育成の視点が欠けたままでプロジェクトは実行されることになり、プロジェクトで人がどれだけ育つかどうかは仕事の内容次第、またはその人の心持ち次第ということになります。しかし、プロジェクトはいろいろなことを学べる場でもあり、その場をうまく活用して人材を育成しない手はありません。その点を意識するかしないかで、プロジェクトから得られるものが大きく違ってくることになります。

 ある外資系の製薬企業企業では、プロジェクトの目的を「薬を作ること」と、「人を育てること」と明確に位置づけていました。実にプロジェクトの本質をとらえており、その企業ではプロジェクトから「薬」という価値と「人の成長」という価値を意識して獲得しようしていたのです。プロジェクトはどのみち企業活動を続ける以上は存在し、やるしかありあません。そうなれば、どうせプロジェクトをやるのであればどれだけプロジェクトからどれだけ価値を獲得できるかが勝負であり、プロジェクトの目的を広くとらえる方がいろいろなものが獲得できるチャンスが増えます。プロジェクトが人材育成の「場」ととらえ活動することにより、人はプロジェクトを通して成長し、人的資産が拡大することで、さらに企業に価値をもたらしくれます。プロジェクトの目的を小さく理解すれば小さい成果しか得られないでしょうが、大きく理解しそれを獲得しようとすれば得られるものも大きくなるということです。

 実際、私もプロジェクトの目的の重要な 1 つにコンサルタントの育成を置いています。コンサルティング会社は人しかいないわけで、人材が育たない限りプロジェクトも受注できないし利益も出せません。プロジェクト活動を通して人材を育成することは企業の戦略に直結しています。プロジェクトで利益を出すことは当たり前のことですので、それ以上に人材育成をプロジェクト・マネジャーの重要なミッションとして与えてプロジェクトを行っています。その結果、コンサルタントの成長は普通の企業に比べて随分早く成長していると思いますし、成長した人材が新たな価値を会社にもたらせてくれています。しかし、単に人の育成が大事だと言っているだけでは念仏と同じで、成果は得られません。そのためには、人材育成の活動そのものをプロジェクト活動に組み込む必要があり、組織としていくつか準備しなくてはなりません。われわれのケースでは、コンサルタントのスキルレベルと達成要件を 5 段階で定義し、その定義に照らし合わせてプロジェクトの最初にプロジェクトにおける役割として達成目標を確認し、プロジェクト・マネジャーはメンバーに何を期待しているかを伝えます。 そして、半年に 1 回は全プロジェクトに対してプロジェクト・メンバーのプロジェクトに対する実践の成果を評価しフィードバックしています。

 全プロジェクトを半年に 1 回フィードバックするため、プロジェクト・マネジャーの負担は少し増えますがプロジェクト・マネジャーにはその重要性を事あるごとに伝えることで、自ら積極的にフィードバックを行ってくれるようになっています。 プロジェクト・メンバーは自分の達成レベルを意識しながらプロジェクトに参画するので、プロジェクトにおいてもより積極的になり早くスキルアップしていきます。

 また半年に 1 回の評価はプロジェクトの個人評価のエビデンスとしても活用し、年に 1 回行うコンサルタントのプロモーション評価の基礎資料にも活用しています。このように、スキルレベルの定義、プロジェクトでの評価、プロモーションにおける評価という仕組みの中でコンサルタントはスキルアップを意識しながら、具体的な個人目標を持ってプロジェクトを行うため、ただ漠然とプロジェクトを忙しく行うことに比べてその意識差の分、早く成長していくことになります。

 しかし、ここで私が強調したいことは個人評価とプロジェクトへの貢献をリンクさせていることではなくて、プロジェクト・マネジャーが全プロジェクト・メンバーに対して半年に 1 回フィードバックを行っているという事実です。フィードバックは組織的に行われ、個人の自己評価、プロジェクト・マネジャー評価、プロジェクト・マネジャーやパートナーが集まった全体評価を行い、個人一人ひとりの成長や課題を客観的に議論し、その評価内容やコメントをすべて公開し個人にフィードバックしていることです。そのために、プロジェクトには直接関係ない時間をプロジェクト・マネジャーやメンバーもいくらか使いますが、それ以上に得られるものがありまます。全員が個人の成長をベースにフェアに評価するので、たとえ厳しい評価でも全員受け入れてくれます。プロモーションはそのフィードバックの延長にしかすぎません。この、ちょっとした組織としての取り組みが個人の成長を早め、会社にとっても大きな価値を作ってくれます。

 プロジェクト・マネジャーといえども会社の組織に一員であり、できる限り会社への貢献を考える必要があると思っています。人の育成は、育成してもらう側だけでなく育成をする側にも喜びを与えることにもなります。プロジェクト・マネジャーたるもの、プロジェクトの成功に「人の育成」を自分の目標に入れプロジェクトを運営してほしいものです。