【02】プロジェクトの目的と成功の条件

芝尾 芳昭 ME、DBA
東京

 プロジェクト・マネジャーとして最も重要なことは「プロジェクトを成功させること」であることは誰もが賛同していただけるかと思いますが、しかしどれほど多くのプロジェクト・マネジャーが自ら担当するプロジェクトの成功の条件を深く考えてプロジェクトに臨むでしょうか? これまで数多くのプロジェクト・マネジャーを見てきましてが、プロジェクトの成功について深く考えてプロジェクトに臨むプロジェクト・マネジャーは思いの他多くありませんでした。

 これは、プロジェクトの成功を考えていないという意味でなく、プロジェクトの成功とは何をもって成功というのかという成功の定義を深く考えていないという意味です。プロジェクトの成功を正しくとらえるには、第一にプロジェクトの目的そのものを正しく理解する必要があります。なぜなら、プロジェクトの目的をどのようにとらえるかで成功の条件が変わってくるし、条件が変わればプロジェクトとしての動き方も必然的に変わってくることになるからです。

 プロジェクト・マネジャーにプロジェクトの目的を聞くと、多くの場合プロジェクトの納期、コスト、品質を達成することと答えるケースが圧倒的に多いのですが、ときおり顧客満足度を達成すること、新たな技術を習得することなど、通常のプロジェクトの目的とは視点が少し違った目的を聞くこともあります。確かにそれぞれ一般に言われるプロジェクトの目的の 1 つであり、達成目標として設定しやすい項目ではありますが、私はそれで十分とはとても思えません。もう少し深くプロジェクトの意義を考えて目的と成功を定義する必要があると思います。

 そのためには、プロジェクトの存在意義そのものとプロジェクトの本質を知ることが重要だと考えています。では、プロジェクトの本質とは何か? 私はプロジェクトの本質は「投資」であるととらえています。この前提に立つとプロジェクトの見え方が少し違ってくるかもしれませんが、よりプロジェクトの存在意義が明らかになるはずです。「投資」であるプロジェクトは「価値」を獲得するために存在しており、納期、品質、コスト、顧客満足度、技術などはその「価値」の獲得するための 1 つの成果にすぎないということになります。これは、顧客と契約してお金をもうら受注型のプロジェクトであろうと、自ら投資する研究開発型のプロジェクトであろうと企業はそのプロジェクトに人、資材、設備、お金を投入して価値を獲得しようとすることは変わりません。これが、利益追求しない公的プロジェクトにおいても同じことが言えます。「公共投資」を行うことで、住民の生活向上を上げるという「価値」を獲得しているだけで、プロジェクトの本質は何も変わらないのです。

 この価値獲得の視点からプロジェクト・マネジャーの役割を考えると、プロジェクト・マネジャーは与えられたプロジェクトからどれだけ多くの「価値」を引き出すことができるのかということを、常に考え実践しなくてはならないということになります。しかし、この価値の視点を持つには、プロジェクト・マネジャーはマネジメントとして 1 つ上の視点を持つことが不可欠となります。つまり、企業において求めるべき価値は何なのかを理解する必要があるということです。プロジェクトを通して「価値」を作り出すと考えた時、企業で行われるプロジェクトが企業の戦略と無縁であってよいはずはなく、プロジェクトは企業の成長に貢献しなくてはなりません。つまり、プロジェクトは戦略実現の一端を担う必要があり、プロジェクト・マネジャーは企業価値の創出に対してプロジェクトがどのように貢献できるかを考えなくてはならなくなります。プロジェクトの所有者である企業が求めている価値を知り、企業の戦略を知ることが不可欠となりますが、どれほど多くのプロジェクト・マネジャーが企業戦略の観点でプロジェクトの位置づけを理解しているのか疑問です。受注プロジェクトにおいても同様で、受注プロジェクトには顧客が存在しており、その顧客が何らかの企業戦略を実現するためにプロジェクトを起こしたわけで、そのプロジェクトは顧客企業の戦略の一端を担っているはずですが、受注企業は顧客企業の戦略やそのプロジェクトに与えられた期待をどれほど理解しているでしょうか? 顧客満足度という言葉はよく出てきますが、残念ながら表面的な人間関係をベースとした顧客満足度に終始するケースが多く、本来の主旨である顧客の戦略実現に貢献することと理解するケースは少ないように思えます。たとえ、目の前の顧客の意見に反してでも、顧客企業の戦略から考えて顧客企業の価値に貢献しないようなことであれば、あえて反対する勇気も必要であり、それこそがプロジェクトの目的を正しく理解することであり、プロジェクトを成功に導くことだと信じて行動すべきです。

 プロジェクト・マネジャーたるもの、そのプロジェクトのおかれた戦略的な位置づけを正しく理解し、その中でプロジェクトから獲得すべき価値を明確にした上で、プロジェクトの成功に向かってプロジェクトを運営してほしいものです。自分のプロジェクトを企業、顧客、あらゆる側面から客観的に見渡し、成功の意味を考える。そして、その成功を阻害する要因があれば極力排除し、成功のための環境を整える。このプロジェクトが開始する前の目的設定と環境作りこそがプロジェクト・マネジャーがやるべき最重要の仕事だと理解し、活動して頂きたいと思っています。