【63】危機への対応
2009 年 1 月 15 日午後 3 時 3 分、ノースウェスト航空 1549 便はニューヨークのラガーディア空港の滑走路からノースカロライナ州シャーロットへの短いフライトに飛び立ちました。
5 名のクルーと 150 名の乗客を乗せたチェズレイ・サレンバーガー機長が操縦するエアバス 320 は、ニューヨーク州ブルックリン上空で鳥の群れにぶつかりました。これにより両方のエンジンがひどい損傷を受け、推進力を失ってしまいました。
管制塔との交信記録のテープを聞くと、2 つのことがわかります。まずサレンバーガー機長は、考えられないことが起こったことを即座に認識しているように聞こえます。これは彼の長年の経験と訓練のおかげでしょう。もうひとつは、同じように管制塔も即座に反応して、押し付けがましくならないよう注意しながら、支援のための選択肢を繰り返し提案しているように聞こえます。
数分のうちに、サレンバーガー機長はラガーディア空港やニューアーク空港、近くのティータボロ空港でさえも着陸するのは不可能だと考え、ハドソン川に着水することを決めました。大地に着陸できるのなら滑空して川に降りるのも似たようなものだと判断したのでしょうが、このプロの機長はすべての選択肢にあるリスクを比較検討して、乗客全員が安全だと判断したものを選んだのです。
これは実戦における危機管理のすばらしい事例です。
航空機のパイロットたちがフライト前に各自の行動について話し合い、チェックリストを使って通常時と異常時の両方に対処していることを知ると乗客も安心するでしょう。つまり、彼らはチームとして、フライト中にとるべき重要な行動について把握しているということです。
この危機に対応するには、チームとして機能するクルーが必要でした。サレンバーガー機長が航空機を操縦しているあいだ、副操縦士のジェフリー・スカイルズは滑走路に着陸できるようエンジンの再起動を試み、客室乗務員らは乗客が無事に不時着できるよう準備していました。ノースウェストの各クルーは最善の結果が得られるよう自分の役割を果たしたのです。
ソフトウェアプロジェクトについて考えるときには、次のような状況がチームに当てはまるか検討しましょう。
- 定期的なチームミーティングがあり、重要なフェーズ(例えばテスト)の前にはその開催頻度が増えること。
- 適切な対応が書かれたリスク一覧が存在すること。
- リスク一覧は定期的に更新されて、常に最新に保たれていること。
- チームにおける専門家が適切なレベルになるための訓練を受けていること。
- 重要な責務について割り当てた危機管理計画があること。
- 危機管理計画には、明確な内部および外部とのコミュニケーション戦略 / 計画が含まれていること。
もし答えがすべてイエスであれば、すばらしいことです。安心して寝ていられるでしょう。もしそうでなければ、すぐに検討して計画を立てるのが賢明です。
危機に対処するためには、まず明確に責任を定めるのがよいでしょう。チェックリストやプロセス、重要なプロジェクトフェーズのための手順を準備しましょう。これは事前にできる作業であり、プロジェクトマネジメント計画とその補助計画に組み込むことで、チーム全員に伝えることができます。
1549 便の事例は、明確に定義された役割があれば、有能なチームは非常に困難な危機ですらうまく管理できることを教えてくれました。