【55】評価指標に基づいて行動する
間違ったものを評価すると間違った行動につながることは、よく知られた事実です。マネジャーが間違った指標でソフトウェアチームを監視、評価すると、チームは日々苦しむことになります。
例えば、マネジャーがどれだけの時間働いたかを評価すると、チームメンバーは長時間働こうとします。研究によると、長時間労働は必ずしもすぐれた結果を生み出すとは限りません。実際のところ、多くの場合、労働品質の低下をもたらします。
同様に、マネジャーがチームのベロシティ(ある期間内にチームが完了する機能の量)を評価し、それに注目すると、チームは速く仕事を済ませようとします。しかし、チームが重要な / 必要な仕事を選んでいる保証はありません。したがって、これはソフトウェア開発をすばやくバグなしで完了させるという、真のビジネス問題を解決するものではありません。
マネジャーがどれだけのバグをテスターが報告したかに注目すると、テスターはバグをたくさん報告しようとします。しかし、ビジネスに多大な影響を及ぼす問題について報告しているとは限りません。もし開発者がどれだけバグを申し立てられたかで評価されていると、テスターは開発者の敵になってしまうでしょう。これはチームに不要な緊張をもたらします。
私の経験から言って、たくさんのソフトウェアをすばやく完了させることは、ソフトウェアの成功を意味するものではありません。ソフトウェアをすばやく開発することはフィードバックをすばやく得るためによいことですが、真の製品づくりには単なる開発スピード以外のものも必要になります。
私は機能不全に陥っているチームをいくつも見てきましたが、ほとんどのチームが間違った指標でマネジャーから評価されていました。この状況だと、チームは間違った指標に合わせて最適化されてしまいます。プロジェクトの目的やビジョンが理解できていないと、各チームメンバーはばらばらな誤りのある指標に対して成功基準を自己定義し、自己評価するようになります。間違った評価基準というのは有害無益なのです。
すぐれたプロジェクト・マネジャーは、成功が何を意味するのか、チーム全員が心から理解できるようにします。チーム内に共通のビジョンと共通の理解が築けるようサポートするのです。チームメンバーがお互いにプラスになる状況を作り出すことで、チームのコラボレーションが促進されます。これによりチームメンバーは共通の目標に向かって、一丸となって仕事を進めることができます。何を本当に評価すべきなのか、チーム全体として確認できるようにしましょう。プロジェクト成功の秘訣は、評価基準を成果物としてではなく、目的達成の手段として利用するところにあります。
同時に 10 個もの異なる指標を評価しようとすると、チームは混乱して集中できなくなるでしょう。同時に評価する指標は 2 つか 3 つに留めるのが効果的です。この 2 つか 3 つの指標は、現在チームを苦しめている問題、もしくは近い将来影響を及ぼすとチームが感じているリスクに基づいて、チーム全員の総意によって決定されるべきです。
問題が解決されたり、リスクが軽減されるにつれて、チームは古くなった項目を取り除いて、新しい項目を評価基準に追加すべきです。評価基準を定期的に変更していないチームは、大きな問題を抱えることになるでしょう。
評価しているものが本当に意味のあるものか確かめましょう。そして、プロジェクトの期間中に、それを変更しても構わないことを知っておきましょう。人は評価されるものに基づいて行動します。したがって、正しいものを評価しているか絶えず確かめる必要があるのです。