【53】アリスはもうここにはいない

バービー・デイビス(Barbee Davis)MA、PHR、PMP
アメリカ、ネブラスカ州オマハ

 近頃のソフトウェア開発者が議論の的にしているのは、最高のプログラミング言語、最高のシステムアーキテクチャ、最高の OS、最高のプロジェクト方法論といったものです。チームメンバーの「アリス」がもうこの場所にはいないことに、まだだれも気づいていないようです。アリスは今どこにいるのでしょうか? これはソフトウェア開発計画にどんな影響を及ぼすのでしょうか?

 アリスはインドにいるのかもしれません。そこではみな英語をスペル通りに話すよう訓練されています。言語の障壁にひるむことなく最善の開発機会をアリスに与えるためには、時間的猶予を許したり、筆談を活用するとよいでしょう。

 アリスはアフリカにいるのかもしれません。そこでは技術者不足のため、雇用者にとってはプロジェクトよりも人材の方が重要かもしれません。使える技術に制限があるかもしれないので、24 時間のメール、電話、インターネット接続があることを想定してはいけません。

 アリスは新興国で恵まれた仕事を得ているのかもしれません。もし彼女がカンファレンスコールで即座に応答できていないようなら、あなたの話す言葉が彼女の耳に届くまでに、30 秒の衛星通信遅延があるのかもしれません。あなたも彼女の回答やコメントを聞くのに同じだけの遅延を感じるでしょう。

 日本のチームメンバーと仕事をするときには、意思決定の違いについて学んでおきましょう。日本人は年齢と経験を尊重します。彼らは若いアリスが遠慮なく話すのを、不快に思うかもしれません。また日本のチームメンバーは、ミーティングの議事録を残すのに、事前にコンセンサスをとることを期待するかもしれません。

 複数の離れた場所に複数のアリスがいる場合には、チームを円滑に機能させるために多数の小さな問題を、細心の注意を払って検討しておく必要があります。

 運がよいことに、私たちは遠隔地にいても、役割に応じたバーチャルなチーム編成をするだけの、すぐれた頭脳と洞察力に富んだ発想を持ち合わせています。この恩恵を尊重して活用しましょう。


監修者からのコメント:本コラムタイトルの原文は“Alice Doesn’t Live Here Anymore” で、1974 年公開マーティン・スコセッシ監督の『アリスの恋』という映画のタイトルを元にしています。平凡な主婦アリスは夫を事故で亡くし、ひとり息子と共に遠い故郷のモンタレーへと旅立つことになります。幼いころからの夢である歌手として日々の糧を得ようとするアリスですが、道中は多難続き。しかしさまざまな人と出会いながら自分の幸せを見つけるという物語です。
オフショア開発などで、地理的に離れたさまざまな国と仕事をすると、文化的な障壁など乗り越えるべき課題が数多く発生します。しかし相手国の文化や慣習を考慮に入れ、きちんと意思の疎通が図れれば、バーチャルなチームは必ずやプロジェクトを成功に導くことができるということを示したコラムです。