【31】顧客からの声
開発者たちやプロジェクト・マネジャーたちから話を聞くのはよいことですが、財布を握っている人から話を聞くのも同じように役立ちます。顧客は私なのですから。
今やソフトウェアは、低コストで、Web ベースのビジネスを可能にするものとして、非営利部門や政府部門の領域にまで進出しています。これまではあまりに高価で手の込んだ、従業員たちの手に負えないレベルの先端技術が簡単に使えるようになってきました。
非営利機関や政府機関はぎりぎりの予算でやっており、こうした自動化の可能性に魅せられるでしょうが、そこには罠があります。何もかも手に入れようとすると、結局あなたは何も動くものを得られず、靴箱と 3 × 5 インデックスカードでデータを保管していた日々を懐かしむことになるでしょう。
ひとつ例を挙げましょう。私が所属する芸術評議会は、紙ベースの助成金申請プロセスをオンラインに移行することを決めました。申請書は評議会に直接提出されて、データベースに登録されることになります。これにより手作業のデータ入力ミスはなくなり、コストは低下し、有権者にとっても不便な発送作業がなくせます。準備中の申請をオンラインでレビューして、提出前に支援することも可能になります。
ソフトウェア開発者は、助成金申請プロセスをどうすればもっと自動化できるか、あれこれ指摘しました。たとえば、システムに投入する前に適正基準に照らして見込みのある組織を吟味したり、締め切りに間に合っているか確認したり、損益のバランスをとらないと申請書の提出ボタンが有効にならないようにしたり、などです。
私たちが一番やりたかったのは、単純にデータをインポートし、データの正確さを検証し、申請を受理したことをメールで返すことでした。ところが、私たちは自由に検討するよう言われていたため、あれこれ検討してしまいました。結局いろいろと検討していたことは期限切れで却下されてしまったのです。その結果、システムは柔軟性のないガチガチの要件のもと、サービス重視の視点を失ったものになりました。あきれたことに、締め切りを過ぎると申請はブロックされて、開発者に特別な上書き処理を依頼しない限り、申請を自分のデータベースにインポートすることすらできなくなったのです。
私たちはもっとシンプルなシステムから着手して、その機能に慣れたころに徐々に複雑にしていくべきでした。必要としていたのは自転車だけだったのに、動かない宇宙船の一部を作ってしまったのです。
私たちは結局そのシステムを破棄しました。今はベンダーを利用して、もっと機能が少なくて安定したシステムを使っています。私たちは古い手続きに合わせたソフトウェアをスクラッチから作るのではなく、システムに合わせて内部手続きを調整しました。今では、オンライン助成金申請システムを、データベースにデータを入力し、操作するための手段だとみなしています。非常に高度な技術を使っている、やれるにはやれるけれども、扱いにくいガラクタのようなもの、ではありません。
顧客を道に迷わせないよう、次のことを心掛けましょう。
- 顧客に計画させ、徐々に構築して、テストを何度も繰り返せるようにすること。
- シンプルなタスクを過度に自動化するようアドバイスしたくなるのをこらえること。
- ユーザーのニーズを理解することを大事にする開発チームを作ること。
テクノロジーの道具袋に入っているものをすべて投入する前に、顧客がうまく扱えるかどうか考えましょう。