【81】VC と付き合う

深田 浩嗣

 ゲームクリエーターが発展して、いつの間にか会社経営していた、ということはよくあります。

 その場合、自己資金で少ない人数で細々と、自由にやっていくつもり、という方も多いでしょう。チームの実力と企画力については自信があるのではないでしょうか。もし、資金があれば、今温めている企画を旬なうちに発売することができるとします。そこで VC(ベンチャーキャピタル)による資金調達を検討してみましょう。

 VC には大小いろいろあります。様々な対象に幅広く出資するところも、業界を絞って出資するところもあります(後者のように専門性がある VC は有力な情報源にもなってくれるし仕事も持ってきてくれます)。ところで彼らは融資のように利息で儲けるわけではありませんが、失敗しても返済を求めることができないというリスクを抱えています。なので、VC も経営チームとして参画することを望むことが多いです。その時の権力は出資比率による、ということはご存知ですよね。51%以上は取られるな! というやつです。では何パーセントになるのでしょうか。それを協議するのがデューデリジェンスという儀式です。

 VC も「そんなには取らない、社長に自由にやってもらいたい」と言ってくれます。しかし、VC は投資ですから、いつか回収して利益をあげることを目的としています。例えば出資先を 5 年以内に上場させる、などの基準があります。それまでに、市場性のあるプロダクトをいくつも発売し成長していけるかどうかがポイントです。

 さて、資金が得られる前提で新作の計画を見直しましょう。より拡大できるわけです。新しく人材採用を何人行うのか、新しい仕様やグラフィックスを追加する工数と予算は? 発売日を伸ばしても、まだ市場性があるのかも注意せねばなりません。

 それらを計画して必要な資金額を計算し、事業計画として提案します。すると、VC はまず「バリュエーション(時価総額)」の算定から入ります。あなたの自己資金 1 千万円で立ち上げた資本金 1 千万円の会社が、既に魅力的なヒット作に着手出来ているので「はい、バリュエーション 1 億円」などと見積もられます。すでに 10 倍です! そしてデューデリジェンスは「5 千万円出資するからこちら持分 33.3% で。ポスト時価総額 1 億 5 千万円ね」となり、晴れて合意となりました。この出資額、それぞれの保有株式数、時価総額のやりとり計画を資本政策といいます。

 さて、その資金で会社を急拡大し、タイトルは大作としてデビューできそうです! しかし、開発が遅れると大変です。やがて資金が尽き、VC に助けを求めます。そのプロダクトはまだ市場性があるのでしたっけ、などと問われます。今度は弱い立場。「バリュエーションは 1 億 2 千万円で。3 千万円出資するからこちら持分 46.7% ね」となり、支配権がピンチとなっていきます。

 やがて VC は、あなたの会社の上場をあきらめ、売却での回収(EXIT)を検討します。開発ラインが欲しい B 社に持ち株を売却しようとします。B 社からの提案が「バリュエーションは 1 億 5 千万円で、主に VC さんから 51% 買収」となり、VC は投資金額を全額回収できずに苦い顔。B 社社長からは「一緒に大作を作っていこう」と言われますが、果たしてこれで良かったのでしょうか……?

 もっとも、最初の出資も無く自己資本で細々とやっていれば、この時期に大作を作るチャンスも無かったはず。

 業界の変化は激しいです。資本政策をしっかり立て出資を受けながらの経営、という選択も、あなたのプロダクトを早く立ち上げるためには一つの手段となるでしょう。

  設立時 VC 出費第 1 回 VC 出費第 2 回 B 社売却
  保有株数 持株比率 保有株数 持株比率 保有株数 持株比率 保有株数 持株比率
あなた 1,000 100.0% 1,000 66.7% 1,000 53.3% 937 49.97%
VC     500 33.3% 875 46.7%    
B 社             938 50.03%
合計 1,000 100.0% 1,500 100.0% 1,875 100.0% 1,875 100.00%
株価 10,000 100,000 80,000 80,000
出資額   50,000,000 30,000,000 0
時価総額
(出資前)
  100,000,000 120,000,000 150,000,000
時価総額
(出資後)
10,000,000 150,000,000 150,000,000 150,000,000