【30】ゲームのサウンドデザイナーとして

小塩 広和

 「サウンドデザイナー」というと効果音を作る人と思われるかもしれません。しかし「サウンドデザイナー」の本来の意味は、ゲームサウンド全体の設計者であることです。すなわち「音を作り」「プレイヤーの耳に届ける」ことまでの責任者です。

 あなたがサウンドデザイナーとして、あるゲームの開発にかかわるとします。ゲームの企画書や仕様書、そして必要な BGM や効果音のリストを元に、時には制作途中のゲーム画面を見ながらイメージを膨らませて、楽曲や効果音を制作し始めます。しかし、プランナーやディレクターが作成したサウンドリストは、多くの場合過不足があります。ある程度の経験があれば、仕様書とサウンドリストを見ただけで、どのサウンドが不足しているか(あるいは過剰か)わかりますが、そうでなくとも制作を進めていくとリストが不十分であることが自然とわかってきます。このような時は遠慮なくプランナーに進言しましょう。最初のサウンドリストは絶対なものではありません。それは最終的にはサウンドデザイナーとプランナーで練り上げていくべきものです。

 サウンドデザイナーはプログラマの担当領域にも気を遣うべきです。例えば、データをゲームに組み込むための変換時にロスが発生する場合があります。しかし、サウンドデザイナー以外はこれを深刻に捉えません。極端な場合、BGM が早回しになっていてもサウンドデザイナー以外は誰もそのことに気がつかないことすらあります。開発しているプラットフォームのサウンドシステムの理解も重要です。ゲームの音が上手く鳴らない場合、原因はサウンドデザイナーが作成したデータの不具合か、プログラマがサウンドシステムを上手く扱えていないかです。これを適切に判断するには、あなた自身がサウンドシステムに関する知見を備えておくことが必要になってきます。プログラマの仕事を理解し、一緒に問題の解決に当たりましょう。その方が多くの場合解決に至る時間が短くなりますし、プログラマからの信頼も厚くなります。これはプロジェクトを成功させる上で少なからず重要なことです。

 サウンドデータを作り終え、組み込みが終わった後も重要な仕事があります。BGM が効果音の嵐にかき消されたりはしていないでしょうか? BGM や効果音、ナレーションのバランスを調整することはとても繊細で時間のかかる作業です。時にはマスターアップの直前まで調整をすることすらあります。あなたの担当が作曲であれ効果音担当であれ、時にはサウンド担当者同士で議論になることもありますが、お互いが納得のいくまでバランスを追及しましょう。

 最後にサウンドのチューニングです。この時に注意するべきなのはプレイヤーが音を聞く環境を想定することです。アーケードゲームの場合はスピーカーの位置や種類が決まっているのでその特性に合わせてチューニングします。さらに店舗に置かれた時を想定して騒がしい環境でもゲーム機の音がプレイヤーに十分届くように音量やバランスを調整していきます。携帯型のゲーム機もスピーカーが固定されているという点では同じですが、ヘッドフォンやイヤフォンでプレイする場合も多いことに注意しましょう。もっとも難しいのがコンソールゲームで、これはどのような環境でプレイされるか全く予想がつきません。このような場合は TV のスピーカーやオーディオコンポ、またはヘッドフォンなど思いつく複数の環境でテストしてどの環境でもそれほど音のブレがないように調整を行っていく のが良いと思います。

 このように、サウンドデザイナーの仕事は多岐に渡ります。サウンドの開発者を志す方には作曲や効果音制作をやりたいという方が多くいますが、是非もう少し興味を広げてみてください。あなたがもう一歩外側のサウンドの知識を身につけ、プロジェクトにもう一歩深く踏み込むならば、きっとそのゲームは素晴らしいサウンドを奏でることでしょう。そして何より自分自身が制作したゲームだという実感とやりがいと誇りを持つことが出来るはずです。