【28】コンテンツビジネスからコンテンツサービスビジネスへ

郷田 努

 ここ数年、私が言い続けてきたことがある。それは、コンテンツビジネスからコンテンツサービスビジネスへの移り変わりだ。ネットワークの進化によって、作って売って終わりというビジネスから、発売後もアップデートやお客様のニーズに合わせた運営などを行うことができるようになった。このことの意味はとても大きい。

 そして FreetoPlay、ソーシャルネットワーク、デジタルディストリビューション、スマートフォンの登場。これは大きなチャンスでもあり危機でもある。そこで重要なのは、これまでの成功体験を捨てて自分自身を再構築することができるかどうかだ。

 ソーシャルゲーム vs 家庭用コンソールゲーム、スマートフォン vs 携帯ゲーム機。ジャーナリズムとしてはセンセーショナルで白黒わかりやすい見出しではあるけど、対立構造と見るのは我々ゲームクリエイターにとってはもったいないし、違う。

 今起きていることと似たことは、業務用ゲームから家庭用コンソールゲームへの転換時 にも起きていた。

業務用から家庭用に転換したことによるユーザーにとっての利点

コンテンツビジネスからコンテンツサービスビジネスへの移行で起きていること

 業務用ゲームがなくなり、家庭用だけが生き残るということは起きなかった。同じように今回も、それぞれのユーザーとニーズに基づいた分化や棲み分けが進んでいくだろう。融合していく部分も多分にある。そして、今までにない転換期は、発明的なゲームを生み出す大きな機会だ。

 ファミコン初期には業務用ゲームの移植作品や、差別化のために映画版権、アニメ版権などを活用した、いわゆる IP 物が数多く発売された。しかし、その後、家で好きな時に好きなだけ固定価格で遊べることをコンセプトにした新しいジャンルが産まれた。RPG や ADV、SLG などと言われる業務用ゲームにはなかったものだ。これらは欧米 PC ゲーム市場に端を発したものばかりである。日本ではニッチ市場だったが、一気に開花した。いわゆるタイムマシーン経営ならぬタイムマシーンゲーム。同じように今、歴史の教訓と周辺ビジネスを知り、何よりユーザーの利用シーンやニーズを理解した新しいゲームが求められている。

 そしてもう一つ記しておきたいことがある。日本で生み出されたソーシャルゲームのストラクチャーが、欧米やアジアも席巻し始めているということである。これには日本を背負うくらいの、大きなグローバル産業になる可能性がある。2012 年には、日本のソーシャルゲーム市場規模は 4000 億円に達する可能性があると言われている。これは、これまでゲームビジネスをリードしてきた家庭用コンソールゲーム市場に匹敵する。

 そしてコンテンツビジネスである以上、リッチ化の流れは当然のように発生してくる。だから、業務用ゲームにおける一目で魅力を伝える方法などのノウハウが家庭用に融合したように、既存のゲーム作りのノウハウとソーシャルゲームのノウハウの融合が必須になっていく。今こそ既成概念にとらわれることなく、チャレンジする人材が求められている。

 私自身も、その大きな潮流の中でチャレンジしようと考え行動を起こした。ソーシャルゲームをリードする株式会社 gumi に join し、これまでの経験を活かしつつも、様々なことを吸収し MobileDevice 時代の新たなゲーム作りを目指して活動している。その成果を遠くない将来にお届けするのでお楽しみに。

 そして、このテキストが、この機会にチャレンジする同志となる人材を生み出す一助になることを願っています。