【21】魅力的なグラフィクスのために心に留めておくべきこと
1.既存の手法の不自然さを考察し、常により優れた表現を目指せ
2000 年代初頭からのプログラマブルシェーダ時代を境に、リアルタイム 3DCG のリアリティは大きく進化しました。それ以前のリアルタイム 3DCG では、永らく Blinn-Phong などの古典的なシェーディングモデルが使われてきました。このモデルは、演算性能が限られていた時代に、物理的正確性よりも速度に主眼を置いて考案されたものです。特に鏡面反射は、経験則による大雑把な近似モデルとなっており、現実の陰影とは大きく異なる不自然な表現にとどまっています。
プログラマブルシェーダの登場前、トゥーンシェーダのような特殊な表現を除けば、不自然なシェーディングを改善しようという動きはあまり見られませんでした。Blinn-Phong モデルこそが正解であるというある種の思い込みが浸透していたようにも感じられます。少し考察すれば不自然さは明らかであるにも関わらず、あまりそれが省みられることはなかったのです。
プログラマブルシェーダ時代になって、シェーディングモデルの改善が容易になりました。ここで、よりリアルな表現を貪欲に求め実現していった層と、従来のモデルを正解とし、シェーダで再現することだけを目標としてしまった層に分かれてしまったように感じられます。
魅力的な表現の実現において、常に既存のモデルの不自然さや違和感を考察し、より優れた表現を目指すことは重要です。
2.「理論的である=魅力的な映像」ではないことを知れ
エンジニアの陥りがちな罠に、理論に頼り過ぎてしまうことがあります。アーティストの感性に基づく意見に対し、「理論的にはこちらの方が正しい」と感じてしまうことはエンジニアなら誰しも経験があることです。しかしアーティストが感じることにも、理屈ではなくとも何らかの理由があるはずです。例えば、エンジニアの理論が不完全であるために、アーティストの感性による表現の方がより正確な結果になっていることもあるのです。
また、物理的な正確性がそのまま魅力ある映像につながる訳でもありません。例えば、映画などの撮影では、自然環境の光源を使うだけでなく、他にも(現実には存在しない)ライトやレフ板を配置してライティング環境を調節することが普通です。そこには物理的な正確さとは異なる意図があり、言わば表現したい映像を創り出すために現実の方を変えているのです。
単に理論的であること、物理的に正確であることが、即魅力的な映像につながる訳ではないということを知っておくことが重要です。
3.魅力的な表現についてのセンスを磨け
何かの表現に出会ったとき、それについて何かを感じ、考えることは重要です。映画やアニメ、ゲームなどなんでも良いですが、とても魅力的に感じる表現に出会ったときは、何故そのように感じたかを考えてみます。多くの場合、魅力を感じるには何らかの理由があります。それを考察し理解することは、より良い表現を創るための武器になります。また、自分たちの作った表現に対して、何らかの違和感や物足りなさを感じて改善することのできる能力(センスと言い換えても良いでしょう)も重要です。
4.総合的なコンテンツワークフローの重要性を理解せよ
どんなに素晴らしい表現のシェーダを開発しても、データ製作のためのコンテンツワークフローが整っていなければ、アーティストの能力を活かすことはできません。ゲームコンテンツは小規模の技術デモとは異なり、何か一つの技術をアピールするためのプログラムだけでは実現できないのです。
新しい表現をゲームコンテンツで実現するためには、直接的な表現の技術はもちろんのこと、その表現をどのようなデータ製作ワークフローで実現するかといった周辺技術も含め、総合的なシステムとして完成させなければならないことを理解しましょう。